ひどい、と出久は思った。ワン・フォー・オールの事は忘れてくれたのに、どうして何もかもは忘れてくれないんだろう、と思った。あの時、出久が勝己に渡したのはOFAだけではなかった。小さい頃からの憧れも、夢も、雄英高校での暮らしもオールマイトとの絆も、未来でさえも、大切なものなにもかも全部を出久は勝己に託した。そして勝己になら、勝己だから、渡してもいい、と思ったのだ。勝己にもそれが瞬時に理解できていたと思うし、もうそれでいいと思った。ずっと追いつきたかった。ライバルでいたかった。肩を並べていたかった。でも。全部全部、かっちゃんにならあげる。かっちゃんなら、いいよ。「かっちゃん!」ナインの個性につぶされそうになりながらも伸ばした血まみれの手に、「デク」答えた勝己の指が触れた。そうやって血に混ぜて大切な個性も想いも、何もかもを渡した。けれど、全部なかったことになって、そっくりそのまま返って来た。そう思ったのに。