「――然ては、余もまた、一人の侍よ」 会場に集った全員の侍へ、一言ずつ助言を伝えて回ったミロクは、最後にそう呟いた。 彼には、向かうべき場所があったのだ。「あんこ殿。手合わせ願おう」 ただその場に佇み、セカンドを見つめ続けるあんこに、ミロクは声をかけた。 怖れ知らず。誰もがそう思ったが、ミロクとて自覚はあった。 しかし、ここで白黒つけておくもまた、彼にとっては大いに意味のあること。 今後の身の振り方を決めるためにも、この一戦は必要だとかねてより思っていたのだ。 そして何より、背中を見せるべき侍たちがいる。 その者どものなんと勇ましき瞳か。 ミロクは一人、静かに覚悟を決めた。「うふ、うふふふ」 不気味な笑い声がこだまする。 まるで、馬鹿にしたような笑いだ。「何を笑うことがある」「残念」「拒むと申すか」 あんこはゆっくりと首を横に振り、艶のある声で口を開く。「殺めてしまっては、主様に叱られてしまいます」「……得心がいかぬ」「嗚呼、可哀想……」 それは、本気の憐みであった。 雨に濡れ震える小動物を見る目で、あんこはミロクを視界に入れる。 ぞくりと、ミロクの背筋を寒気が走った。「――フハハ! それならば、そこな我の後輩は一切の手出しをせねばよかろう!」 そこへ、お呼びでない精霊がやってきて、そんなことを口にした。 ミロクは、こう思わざるを得ない。一切の手出しをせず如何にして勝つというのか、と。「戯れも大概に――」「それでよいならば、お相手いたしましょう」「!?」 しかし、ミロクの考えに反して、あんこは首を縦に振った。「そこな我の後輩の後輩よ。貴様の血気もそれで少しは落ち着くであろう?」「!」 アンゴルモアが見透かしたように言う。 ミロクは渋い顔をして、頷いた。「ならば……試してみるか」 表情は険しいまま。 ミロクは、最初から悟っていたのだ。 おそらくは、勝てないと。「一切の手出しをしない」という約定を取り付けて尚、己の勝利は未だ見えない。 では何故、ミロクはあんこへと挑むのか。 アンゴルモアは、その目論見を見抜いていた。 確かに、セカンドに使役される魔人同士として、どちらが上かハッキリさせたいという考えもあった。だが、決してそれだけではない。 高みへ挑む姿勢こそが、今の侍には必要なのだと……島にこもったままではならぬと、ミロクは身をもって示そうとしているのだ。 これまで、千年以上、挑戦をしてこなかった男が立ち上がったのである。 負けるとわかっていても、立ち上がったのである。 それは、アンゴルモアがセカンドの中に見た、sevenという男の生きざまによく似ていた。 勝とうが負けようが、常に先頭を走り続けた、あの男の青春時代だ。 そんな男と共に過ごし、共に戦った、熱い男の血が、ミロクにも確と流れている。「本当によいのか」「うふ。無駄な心配を。一手で終わりましょう」「……余は、心の何処かで、それを期待している」「愚かなり。それほど死にたいか」「主に叱られるのであろう?」「手が滑るやもしれませぬ」「余とてそれは同じこと」