「わかりました」 フローラはそそくさと浴室へ引き返していく。リオは浴室の扉が開く音が聞こえたのを確認してから、脱衣所へと足を踏ふみ込んだ。「……クリスティーナ様。ハルトです」 リオが浴室への扉越しにはっきりとした声こわ色いろで、クリスティーナに語りかけた。「ア、アマカワ卿。申し訳ございません。騒さわぎ立たててしまって」 クリスティーナの返事が戻ってきて、その声色からそこまで緊きん急きゆうを要する事態ではなさそうだとリオは判断する。「いえ。症しよう状じようをお聞かせいただけますか?」「えっと、お風呂に浸かっていたら強い眩暈がしてしまいまして、視界がぼーっとして、立ち上がることができなくて……」「お風呂に浸かっていたら、強い目眩がした……。もしかして今もまだお風呂の中に浸かっておいでですか?」 リオはクリスティーナの説明から「それはひょっとして……」と見当をつける。おそらくその症状を引き起こした原因が今もまだ解消されていないのではないかと考え、状じよう況きようを確認した。「え、ええ」 浴室で反はん響きようしてくぐもった返事が聞こえる。「申し訳ございません。私の説明が不足しておりました。恐れながら、それはのぼせられたのだと思います。ほんの一時的な症状ですから、まずはご安心を」 リオがほっと胸をなで下ろして、症状を診しん断だんした。「……のぼせる?」 脱衣所と浴室を繋ぐ扉のすぐ向こうにいるらしく、フローラの不思議そうな声が聞こえてくる。「熱いお湯に長く浸かっていると、体内で血液の循環が活発化しまして、頭に血が上ってしまうんです。それが原因で立ち眩くらみや眩暈を覚えることをのぼせるといいます。ひょっとして、しばらく湯に浸かられていて、急にお立ちになろうとしたのでは?」 と、リオはのぼせてしまう原因を語って問いかけた。「……まさしくその通りです」「やはり。急な血圧の変化に、身体がびっくりしたんでしょうね。入っていると気持ちよくて気づきにくいんですが、ほんの一、二分でものぼせてしまうことがよくあるんです。気を失うほどのぼせているのでなければ、ゆっくりとお風呂の外に出るか、お風呂の縁ふちの部分に座って上半身を涼すずめることですぐに治まると思うのでご安心ください。それが長くお湯に浸かるコツでもあります」