アランだってそのことはわかっているはずなのに、それでも諦めずに思い続けている。 そんなアランがすごいと思うし、そしてそういうところが少しだけ羨ましい。「ん? どうしたんだ?」 アランが反応のない僕に心配そうに尋ねてきた。「いや……」 なんでもないよ、と答えようかと思ったけれど、僕の中でちょっとしたいたずら心が芽生えた。「アランって、リョウ嬢のどこが好きなの?」 と僕が聞いてみると、アランが目を見開く。「は!? おま、リッツ、こんなところで、何言ってんだよ。好きって、それは、だって……」 と言ったアランが、ちょうど近くにきたウエイターから飲み物をもらって、それを勢いよく一口飲んだ。 そして、意を決したように口を開く。「……全部好きだよ」 そう照れながら言うアランに衝撃を受けた。 甘酸っぱい! なんか僕の方が恥ずかしくなってきた! 昔は、こういう話題をふると、リョウは妹みたいなものだからとかムキになって言ってたのに、こんなに素直になろうとは……。 大人になったんだね! アラン! 思わず感動を覚えていると、リョウ嬢の周りにいた人たちが散っていった。 あ、今なら、話しかけられそうだと思っていると、すでにアランは行動を起こしていた。 足早にリョウの方に向かってすでに声をかけている。 さすがアラン。 僕も大人しくアランの後ろを追いかけた。「あれ、アラン、それにリッツ様もきていらっしゃったんですか?」 アランに声をかけられたリョウ嬢は、僕とアランを見て驚いたように目を見開いた。 というかどうしてきてるんだろうと不思議に思っているような顔をしてる……。 まあ、そうなるよね。「はは、なんかアランに連れられて……」 と僕が言うと、リョウ嬢は同情の眼差しを僕に向けた。「リッツ様、すみません。またアランの暇つぶしに付き合って頂いてるみたいで……」 とリョウ嬢が申し訳なさそうに謝った。「ははは、まあ、もう慣れてるし、それなりに楽しいよ」 と答えると、リョウ嬢が小声で「さすがです閣下……」と呟いて頷いた。 リョウ嬢はたまに、閣下とか先生とかホトケとか言ってくるんだけど、彼女の中で僕って一体どういう立ち位置になってるんだろうか……。「な、なあ、リョウ」 と、アランが少しそわそわした様子でリョウ嬢にそう言った。「何ですか?」「なんかドレスに汚れとか、付いてないか?」「え? ドレスに汚れ?」 そういって、慌ててリョウ嬢が自分のきている服に目を向けた。 スカートの部分や背中のあたりを見て、汚れが付いていないのを確認すると、非難するような目でアランを見る。「別に、ドレス汚れてないと思いますけど……? 汚れてます?」 訝しげにリョウ嬢がそういうと、アランが少しばかり落ち込んだ。「いや、汚れてないなら、いいんだ」「なら、どうして汚れのことを聞いてきたんですか? ち、ちなみにこのドレス、アイヴォリーって言って、もともと少し黄色味のある白いドレスなだけで、別に汚れて黄ばんでるわけじゃないですからね!?」 と、リョウ嬢が必死に言い募ると、アランが慌てて首を振った。「あ、いや、別にそういうつもりで聞いたわけじゃない! ただ、リョウのドレスが汚れていたら、俺がその汚れをとりたかっただけで……」「え? 汚れを、ですか?」 と答えながらも戸惑うリョウ嬢。 うん、気持ちわかるよ。 なぜ突然汚れを取ろうとしているのかっていう不思議さしかないよね。 だいたい、アラン、さっき汚れをとったぐらいで好きになるわけないって自分で言ってたじゃないか! あとね、僕が言いたかったのは、汚れを取る行為自体に意味があるんじゃなくて、あの時のはそれまでの流れのスマートさがいいって話なんだけどね! 心なしかぼくに向かって恨めしい目をしてくるアランに思わずため息が漏れた。 なんていうか、アランって、ほかの女の子の時はちゃんとしてるのに、リョウ嬢の前になると、なんていうか、こう、残念な感じになるような気がする……。「いや、本当になんでもないんだ。リョウの、その白っぽいドレスも似合ってる。白い……蚕みたいで!」 と、アランが慌てた様子で口にした。 蚕かぁ。さっきアランが言ってた白い芋虫を、ただ具体的な虫の名称に変えただけだよね……。「蚕ですか……」 アランのドレスの褒め言葉になんとも微妙な表情で繰り返すリョウ嬢。 ごめん、リョウ嬢。 僕がもう少しちゃんと言っておけば……。 そのあとは3人でとりとめのない話をして、リョウ嬢が別の人に呼ばれたこともあって別れた。 別れるときのアランの寂しそうな顔といったら、捨てられた子犬みたいな顔だった。「なあ、リッツ、やっぱりドレスの汚れなんかとったって、好きになってくれなさそうだったぞ」 リョウ嬢と別れて壁際に移動すると、アランはそんなことを言った。「いや、だからね、汚れを取ることが大事なんじゃなくて、それまでの所作というか、流れがいいって話なんだよ」「流れ……? まずは、ドレスを汚すところからはじめるってことか? リッツ、お前ってやつはすごいことを考えるんだな」「わざと汚そうなんて思ってないよ!」 見当違いなことを行ってくるアランに、僕はそう言ってため息をはいた。 僕の友人は、なんでこう、どこか残念なんだろう……。