くすくすと笑いながら、私たちの前をちょこちょこと歩き回る王女は、非常に可愛らしかった。ほほえましく思って見ていると、王女は私の前でぴたりと歩みを止め、驚いたように見上げてきた。「……あなた、すごく強いのね。お名前はなぁに?」「はい、カノープス・ブラジェイと申します」突然話しかけられたことに驚きはしたものの、冷静さを装って答えると、王女は嬉しそうににこりと笑った。「カノープス、私のごえーきしになってくれませんか?」私は驚いて硬直した。他の騎士たちも、離れたところに控えている高位の文官たちも、驚いたように硬直している。けれど、すぐに文官たちが王女の元に走り寄ってきた。「で、殿下、違いますよ。殿下の護衛騎士はこの者ではありません。さぁ、覚えているお名前をおっしゃってください」「おとー様からは、好きな者を選んでよいと言われました」「そ、そ、そうかもしれませんが、私どもがお示しした名前は参考ではありますが、今までの殿下方は皆様その参考を選ばれております。参考を選ばれることがよろしかろうと思われます」「だ、第一、その者は離島の民ではありませんか。王女の騎士となるには家格が足りません」文官たちは必死に言い募っていたけれど、王女は気にした風もなくにこりと笑った。「助言をありがとう。でも、私はカノープスがいいの。……カノープス、私のごえーきしになってくれませんか?」王女はもう一度同じ言葉を繰り返すと、きらきらとした目で見つめてきた。ちらりと文官に目をやると、恐ろしい表情でぶんぶんと首を横に振ってきた。けれど、それこそ現実的ではないだろう。王女からの要請に、否と答えられる訳がない。私は片膝をついて跪くと、騎士の礼を取った。「私、カノープス・ブラジェイは、セラフィーナ・ナーヴ第二王女殿下の騎士として、私の全てをお捧げします。どうか、私の王女殿下に栄光と祝福を」そう言って頭を下げると、王女のドレスの裾に口付けた。王女はにこりとして、後ろを振り返った。すると、王女の後見役である騎士団副総長が、立派な一振りの剣を手に持って近付いてきた。「王族の護衛は命を懸ける仕事だ。決して命を惜しむな」副総長はそう言うと、私に剣を手渡した。「この剣をもって、お前をセラフィーナ第二王女殿下の護衛騎士に任ずる」受け取った剣は、ずしりと手に重かった。副総長の睨むような視線の強さからも、第二王女をどれだけ大切に思われているかがうかがい知れる。―――私は、とても重要なお役目を拝命したのだ。身の引き締まる思いと共に、この役目を与えてくださった王女に心から感謝した。幼さゆえに世のしがらみを理解していないのかもしれないが、それでも、それまでの慣習を断ち切り、予め定められていた高位貴族の子弟ではなく、何の後ろ盾もない私を選んでくださったことに対して。