《桂馬糸操術》 一定時間、魔物・人間・人形などを糸で操るスキル。 この時、操られている側のステータスは、操っている側の80%のステータスが適用される。 ……雨のせいで、糸は非常に見えにくい。だが、合羽女の洗練され過ぎた動きでハッキリとわかった。屋根の上の男が、この合羽女を《桂馬糸操術》で操っているとみて間違いない。 全く、期待させてくれる。 【糸操術】では、STRは上がらない。つまり、80%のステータスで魔術師の手を軽く握るだけで捻挫させるようなSTRとなれば、それなりに他のスキルを上げているということの証左。 その上で、肝心の【糸操術】の研鑽も怠っていないと感じた。ここまで綺麗に他人を操作できている《桂馬糸操術》は、なかなかお目にかかれない高等技術である。多分、屋根の上の男は、桂馬以外も腕が立つのだろう。 さあ、というわけで、プレ天網座戦の始まりだ。「アロマ、VITは?」「さ、38」 ということは、えーと大体……「プリンス君、STR200~250くらいかあ」「!?」 初めて、屋根の上の男が動揺を見せた。 あれがプリンス君で間違いなさそうだ。 さて、攻撃の手は緩めないぞ。「AGI400前後、SP750前後、となるとDEXは400~500の間でどう?」 移動距離と移動速度、その緩急、《桂馬糸操術》九段における使用中のSP消費量と、行動を止めたタイミング、それらによってぼんやりと浮かんできたAGI・SPからどのような成長タイプでどのようなスキルをどのように上げているのか大まかに予想し、おおよそのDEXを導き出す。 ぴたりと言い当てることはなかなか難しいが、経験からくる“勘”でなんとなーくわかってしまう。「458か?」「!?!?」 どう? ピタリ賞? そのようだね。 【糸操術】の火力は、主にDEXが影響している。せっかく秘密にできていたDEXが暴かれたということは、すなわち、手札が一枚減ってしまったということ。なかなか痛いでしょ?「無視するなセカンドッ! 刺すわよッ!」 なんだ、今いいところなのに合羽女がうるさい。「なあ、多分だけどさ、俺の軍師が、人質をとって負けを要求するとしたら、こうする」「は?」「一人殺して、後はだんまりだ」「……!」 そもそも、お前らは殺意なんてない。害意すらどうだか。「人質ごっこ」がしたかっただけだろう。「――それは、大当たり、かな」「おい、神出鬼没だな」「セカンドさん、あるところ、軍師もまた、あり、だよっ」 突然どこからともなく現れたウィンフィルドが、そう言ってきゃる~んとウインクした。クールな長身美女がそんなことしてみろ、ヤッベェぞ。 そしてさらにヤベェのが、ウィンフィルドめ、今度は俺の耳に顔を近づけてこしょこしょ話ときた。 さて、どんな面白い話を聞かせてくれるんだろうか。「ね、プリンスくんって、自分で点けた火を、自分で消したかった、ぽくない?」「…………あっ」 うわ、そういう……。 え、じゃあ何か。自分の女に協力してもらって、自作自演していたわけ? 自分で作ったピンチに、自分で颯爽と駆けつけて、アロマたちにイイトコ見せようとしてたと?「……何ゆえ?」「あー……」 尋ねてみると、ウィンフィルドは言いづらそうに口を開いた。「モテたかったん、じゃ、ないかなあ」「納得」 あ~。そういうやついるわ~。自分が一番モテてないと気に食わないってやついるわ~。「うん……だが、プリンス君、恥ずかしがることはないぞ」 一気に見る目が変わった。「気にするな。そういうやつは強いって、俺よく知ってるから」 そう、そうなのだ。そういうやつほど、変な強さがある。 何故かって、嫉妬かなんか知らないが、ちょっとしたファンの獲得、あわよくば更にモテたいという、そんなちんけなことに、ここまで努力できる人間なんだ。