「ああ、君との恋物語が続くんだったね。あれは笑ったよ。よく考えるものだ。まあ、昔から獣と人の恋愛を題材にした本もあるわけだし、需要があるのかな?」 とナチュラルにおっしゃいますけれども、いやいやちょっと。ちょっと待って。 劇のテーマを勝手に美女と野獣みたいな立ち位置のものにしないで。 どちらかといえば身分差恋愛ものだから。 異種族恋愛ものじゃないから。 私が無言で不満をアピールしていると、再びゲスリーは口を開いた。「勝利の女神役は君がするのかい?」「4年生の騎士科の生徒の女の子が演じる予定になっています」 私がそう答えると、ヘンリー様は「ふーん」みたいなことを言って、稽古のご様子を観察された。 ヘンリーの視線の先には、一生懸命お芝居の練習をしている生徒達。 ヘンリー様の視線を感じた生徒達、特に女生徒達がキャと言って、お芝居の稽古を再開するけれども緊張したご様子。 ヘンリー様がいらっしゃるということで、芝居にも力が入っているけれど、力が入りすぎて顔が赤い。 そう我らがゲスリー様は女子に大人気なのだ。 芝居を見に来ちゃうと舞い上がっちゃうのだ。 しばらくゲスリー王弟は芝居の様子を見てから、ぽつりと言った。「君が、自分の役をやるというのなら、私もその先の物語を演じてもいいよ」 何言ってんだこいつ、と思ってゲスリーの方に顔を向ける。 ゲスリーはいつもの胡散臭い笑顔で稽古をする生徒達の様子を見ていた。「いえ、私は忙しくて無理ですね。それに、もう演者も決まって練習も始まっていますし、残念ですが。では、ヘンリー様は魔法を使う場面だけってことでよろしいですね」