玄関の鍵を閉め、奏と向き合う。小学校と職場は真反対にあるため、ここからはお互いに別々だ。「じゃあね奏。できるだけ早く帰ろうとは思ってるけど、奏のほうが早かったら鍵開けて先に家入っててね」「慌てなくていいよ。俺は別に平気だから」いつもの声かけにいつもと同じ言葉が返される。その言葉に善逸はへにょっと眉を下げつつ、奏と別れた。足早に職場を目指しつつ奏の音を思い出す。“平気だから”と言う言葉に嘘の音はなかった。だからこそ、善逸はやるせなかった。せめて、音だけでも嘘の響きがあれば、本当は平気ではないのだと感じることができる。でも、奏の言葉には嘘が一切ないのだ。本当に平気だと思っている。平気なことが当たり前であるということ。それはつまり、親に甘えるという子供として当たり前の行為を無意識的に排除しているということに他ならない。