どうしました、アキちゃん? そろそろ出発しますよ」「ぐ……! 師匠! 僕が女装する意味はあったのですかっ!?」「そりゃありますよ。奴らの第一目標はブライ――アキちゃんと言っても過言じゃないんですよ? 顔が割れてるなら化粧でもするしかないでしょう。ましてや性別が変われば、疑いも少ないというものです。幸いトウエッドの人間は黒髪ばかりです。自信を持って言えますよ。私の、アキちゃんならではコーディネイトです」 未だ納得いかないのか、アキちゃんはとても悔しそうに拳を握っている。 血とか出てしまいそうな程に。「……く、師匠。この服もそうだと言うのですか……!」 掛け衿を掴み、自らが着ている衣服に不満を見せるアキちゃん。「見事なものでしょう? 私の姉弟子の傑作です」 以前メルキィがふざけて作った女物の和服。 自分用だと言いながら一度着て飽きてしまった物を、俺のストアルームに入れた。と言うか勝手に入れられていた。 メルキィの身長ならばと、アキちゃんに合わせてみたが、中々に似合う。 薄い緑を基調とした紅葉柄。 着てしばらく経っているせいか、悔しさよりも恥ずかしさを見せ始めるアキちゃんは、もはや女の子にしか見えないだろう。「こ、こんな……こんな事をするためにトウエッドに来たんでは……くっ!」「そのトウエッドに行くための作戦です。耐えてください。それに……――」「な、何ですかっ?」 俺はきっと……ここで、無意識に笑っていただろう。 とても嫌らしく、厭らしく、イヤらしく……そして爽やかに。「『何でもお任せください』と言ったのはアキちゃんですから」「…………っ~!」 アキちゃんに指導という名の社会勉強をさせた俺は、内衿に『アズ君用』と書かれた焦げ茶色の和服を身に纏い、自身の身体に幻術魔法を掛けた。 どんな顔になるかと俺をチラチラと見ていたポチは、完成した顔に驚きと笑いを見せ、「うひゃうひゃうひゃひゃ」とか、おっさんみたいな笑い声をあげた。「ひゃひゃひゃほっ! トゥースさんです! ちっちゃなトゥースさんがいますっ! あははははひゃひゃひゃひゃひゃ!」 土埃が舞う程、地をバシバシと叩くポチ。 そう、俺が変身したのはトゥース。ポチと二人、旅に出てから一番記憶に残る顔。 そんな憎々しい顔だが、記憶に残っている方がイメージしやすいというものだ。 顔の色はやや色黒という程度、ヤツの潰れていたエルフ耳は普通の耳。身体に合わせたトゥースの顔。 ふむ、こんなものか。「……本当にこれしか方法がないんですか?」 肩を落とし、しょぼんと項垂れるポチ。「俺の頭じゃこれが限界だよ」「それは仕方ありませんね」 俺の頭の話で即座に納得したポチの頭に納得出来ない俺は、ぴくりと眉を反応させるも、ポチもポチで我慢しようと観念したみたいなので、おあいこという事にしておこう。おのれ。 チャッピーの身体に合わせ、ポチが適度な巨大化を行う。 俺はポチ側を、子供役のアキちゃんはチャッピー側の手綱を引き、歩く格好だ。 嫌がっていたポチに幻術魔法を掛けると、ポチは白黒の斑模様をした見事な牝牛に変身した。「も~」 早速鳴いた。いや、目に涙が見える。泣いたんだろう。 そして涙目のポチが即座に何かに気付いた。「い、嫌ぁああああああああああああああああああああああああっ!?」