その真実味のある隊長の話し方に、衛兵はいつの間にか真剣に耳を傾けていた。「そ、それでどうなったんですか?」「ハハッ。いくら冒険者と協力したとしても、俺は生き残れないなって直感で悟ったな。他の連中も死を覚悟してた。なんで逃げなかったのかって思うだろ? 王都は大賢者様の結界で無事に済んでも、近隣の村や町はそうはいかない。おそらくだが、少なくとも数十万の犠牲は出る大災害だ。少しでも犠牲を減らすため、時間を稼ぐために皆が決死の覚悟で、その場に踏みとどまった。 それくらいAランク迷宮『悪魔の牢獄』の魔物ってのは、常識はずれの強さなんだ。 ただ、そのときに現れたんだ。真っ赤な魔導鎧にマントを羽織った『氷血断空』を先頭に『赤き流星』の連中がな。 その強さときたら――おいっ! そこの者、なにをしている!!」 いよいよ佳境といったところで隊長は話を中断する。その視線の先は、列に並ばずに歩みを進めるエルフの女性の姿があった。 そのエルフの女性はあまりに軽装で、王都まで旅をしてきたとは思えない格好であった。 商人がアイテムポーチに商品を入れて、普段着で旅をすることは野盗対策でよくある話なのだが、隊長はエルフの女性が着ている服に見覚えがあった。少しデザインは違うが、王都冒険者ギルドの受付嬢の制服である。「あら、ごめんなさい」「なんだその態度は!」 衛兵は隊長の話をいいところで邪魔されて、苛立ちを隠さずエルフの女性に強い態度で接する。「大きな声を出さないでちょうだい。エルフの私には耳に響くわ」「誰のせいだと思っているんだ!」「困ったわねえ。 あなたも仕事なのはわかるけど、私は急いでるの。 これでもカマーから何日も走り続けて、やっと着いたの」 衛兵とエルフの女性の会話から、隊長は制服の疑問が解ける。(なるほど。あれは都市カマー冒険者ギルドの制服であったか。んん? 何日も走り続けてきた? カマーから王都までを? どういうことだ。その割には足元が……) エルフの女性の足元へ目を向ければ、とても何日も走り続けてきたとは思えないほど靴は綺麗であった。 そもそも身体能力が人族より劣るエルフの、それも女性がカマーから王都まで走り続けるなど、それどころか数日でたどり着くことなどできるはずがないのだ。「本当に怪しい者じゃないのよ? ほら、ギルドカードだって持っているわ。なんなら都市カマー冒険者ギルドへ、エッダ・アルントについて尋ねてくれれば――」「皆が急いでいるのだ。お前のようにルールを守らない者がいるから、和が乱れるのだ! それになんだ! その黒い・・ギルドカードはっ!! そんなギルドカードなんて見たことないぞ!! 偽造の疑いがあるから、こちらに来てもらおうか!!」