緑の塔の作業場で、ダリヤとヴォルフは揃って作業着を身につける。 ここしばらく、微風布の開発に、遠征用コンロのプレゼン、その後はヴォルフの遠征と、人工魔剣制作がまったくできなかった。 時間のとれた今日こそと、二人とも気合いが入っていた。 本屋の後、ヴォルフと短剣を買った武器屋に寄った。 白い髭を持つ武器屋の主人は、一度しか行ったことのない自分を覚えてくれていた。 この前の短剣付与はうまくいったかと聞かれ、なかなか思うようにいかないと答えたところ、『慣れないなら当たり前だ。鍛冶見習いなら千本打ってからの話だ』と笑われた。 その明るい笑い声に、父をなつかしく思い出した。 その後、短剣より一度大きい物に挑戦するのも勉強になると勧められ、魔法付与向きの長剣を買うことにした。 長剣を買うにあたり、ダリヤでは判断がつかず、ヴォルフに任せた。 長さはすぐ決まったのだが、材質で、キレ味優先の剣か、それとも、粘りのある剣の方がいいかとヴォルフと話し合い始めた。 ダリヤはその間に、隣室で魔法付与のある女性用の靴を見せてもらった。 が、戻って来たときには、ヴォルフは店の主人をフロレスと呼び、店の主人はヴォルフを名前呼びしていた。 ヴォルフとイヴァーノといい、マルチェラといい、男同士の友人というのは、距離感が消えるのがとても早いように見える。自分も男性だったらと、少しだけ思ってしまった。「では、今回は長剣で、魔封銀を接続部分、両方向に二重にしてやってみたいと思います」「ついに長剣だね!」 跳ねそうな勢いで言うヴォルフを横に、笑いをこらえつつ、作業台の上を確認する。 そこにあるのは魔法の付与ができるお手頃価格の長剣と、魔封銀を入れた小箱だ。 剣は、持ち手である柄が黒、鍔は銀で飾りがない。 濃い灰色の鞘、鈍い銀色の刃と、地味な見た目ではあるが、しっかりとした厚みと長さで、ダリヤが簡単には持てないぐらい重い。 移動させるときにその重さに驚き、場合によっては遠征で二刀流になるというヴォルフに、さらに驚いた。 ダリヤがこの剣を振ったら、自重でそちらに体がもっていかれるし、咄嗟に持ち上げられないだろう。 感心しつつも作業を進めることにする。 両手にちょうど乗るぐらいの金属の箱には、魔封銀がたっぷり入っている。 蓋を開けると、とろりとした銀色は、自分の魔力で少しだけ表面を動かした。 ダリヤは声を出さなかったものの、少しだけ慌てる。 魔封銀は、特殊鉱と呼ばれる変わった金属で、魔法を付与すると、液体から固体になる性質がある。うっかり多い魔力を通して固まらせてしまうと、使えなくなるのだ。 最近、魔力が急に上がったダリヤは、制御しているつもりでも、時折揺れが出るらしい。気を引き締めて制作に望まねばと思う。「今回も、刃に研ぎいらず、鍔に水魔法で洗浄、柄に風の魔石で速度強化、鞘に軽量化、でいいでしょうか?」「お願いできるなら、刃に研ぎいらずじゃなく、火魔法の付与ってできないかな?」「グラート様の灰手みたいな感じですか?」 ダリヤも見せてもらったが、グラートが持つと高熱と魔力を立ち上らせる、なんとも不思議な剣だった。 魔物がきれいに焼けるので、干物作りにもいいと聞いたが、火力も魔力も桁違いだ。「ああ。灰手で干物を作ると、本当に効率がいいんだ。鮮度も保てるし」 どう聞いても魔物討伐部隊の台詞ではない。漁師か漁村に住む者の希望にしか聞こえない。「あそこまでは無理ですが、少しだけならいけるかもしれません。ちょっと待ってください……」 メモに数値を書き連ねて計算をする。怪我をしないよう、二度計算し直して、安全範囲を出した。「炎の魔石三つまでですね、私の今の魔力で安全につけられるのは。小魚とか緑イカぐらいしか無理な火力ですし、鞘が熱遮断の付与になりますけど、いいですか?」「もちろん!」 作業机の上に熱遮断の金属板を置き、ヴォルフに分解してもらった剣を並べる。