まさか、教えにきたはずの俺が教えられる事になるなんてな。これが…………この時代に来た本当の理由……! 一本とられたな……神様) するとアズリーは苦笑する自分の顔に気付き、頭を振った。 そんな顔をしていたら、また隣にいるポチに何を言われるかわからなかったからだ。(あれ? それにしてもポチのヤツ? さっきから一言も喋ってないような?) アズリーはそう思って隣を見る。 ポチは……サガンや主の事を見ていなかった。 そしてその対象がリビングデッドキングでもない事は容易にわかった。 ポチの身体は、完全に反対側を向いていたからだ。 目は鋭く、警戒心が強い事は、長くポチと過ごすアズリーはすぐに理解出来た。「何か来ます」 ポチの一言は隣にいたアズリーにだけ届けられた。 戦闘中のサガンに聞こえてしまう事をポチが嫌ったからだ。 アズリーはポチが向く方向に意識を向ける。サガンに余計な情報を与えないように、身体の向きはそのままに。 近付く気配はそれ程強いものではなかった。 それはアズリーにもポチにもわかった。(数も少ない……いや、一匹じゃないか?)「ランクSSのモンスターと我々がいるのに近づいて来るという事は……よほどお腹が空いたモンスター……でしょうか?」 ここに漂う異質な魔力。本来であればここに近付く者はいないだろう。 アズリーの魔力は落ちているとはいえ強力。 そしてこの場で一番強いポチがいる。 両者に劣るとはいえ、ランクSSのリビングデッドキングやサガンもいる。「それでも来るってのは……ちょっとしたお馬鹿なのかもしれないな」 アズリーが苦笑しながら呟くと共に、ポチの目が見開かれる。「あれはっ!?」 ポチが抜けたような声を出した。 そんなポチの反応にアズリーが引っ掛かったのか、顔をそちらに向ける。「ハァハァハァハァ……ハァッ!!」 涎を垂らしながらひょこひょこと近付く影。 やがて赤黒い体表を二人に見せ、近付くその姿。 身体は非常に大きい。帯びている魔力はランクAからSと言ったところだ。 しかし二人は目を丸くさせた。 その挙動を…………どこかで……そう、どこかで見た事がある気がしたからだ。 二人は首を傾げて「ん~~~……」と唸る。 そして月に照らされて見えた瞬間、二人は声を零した。「「あっ!」」 同族に近いポチが前脚を正面に出し、アズリーの顔が「まさか」とニヤける。 空腹によりなりふり構っていられない顔は、やはり誰かに似ている。 そしてその存在を目の端で捉えたサガンが呟くのだ。その個体の名前を――――、「……狼王ガルムか」