「ええと、あの子――アイリスだっけ? 彼女の親は役人だと聞いたが、その伝は使えないのかい?」「稼ぎが途絶えたアイリスの親が、役人の上層部を使おうとしたのですが、多額の袖の下を要求されたようで……」「はぁ、順調に腐っているなぁ」「全くだね……それはそうと、旦那。崖の上でお宝は出たのかい?」 ニャメナが、頭の後ろで手を組み、俺達の後をついてくる。「ああ、金貨と銀貨、それと魔導書が一冊だ」「そりゃ、結構大当たりじゃないか」「まぁな」 耳のいいミャレーが、俺のバイクの音に気がついたのだろう。家からアネモネと一緒に出てきた。「プリムラ、今日はもう暗い。チーズの検証は明日でいいか?」「もちろんです」「ケンイチ~!」 アネモネが、俺に抱きついてきた。「よう、クロ助。今日の宝探しは当たりだったんだってな」「まぁまぁにゃ。でも、動く骨とかが出てきたにゃ」「本当かよ! 結構面倒な事になったな」「でも、ケンイチの召喚獣で叩き潰したにゃ」「ははは、確かに――あの鋼鉄の腕で潰されちゃ、動く骨も手も足も出ないだろ。それで分前はちゃんと貰ったのかい?」「うにゃ? 貰ってないにゃ」「旦那~?」 ニャメナが横目で俺を、じと~っと見ている。「分前を渡そうとしたが、彼女が要らないって言ったんだぞ」「そんなのは要らないにゃ」「あっ! そういえば、こいつは金持ちだった! くそ~っ、余裕かましやがって」 彼女は、ミャレーが俺と組んでシャガの一味を討伐した詳細を聞いたようだ。「にゃはは」 ニャメナが、ミャレーの余裕顔を見て地団駄を踏んでいる。「旦那におんぶに抱っこしてもらってただけじゃねぇか。今日だってそうだろ? タダの運だろ?」「運も実力の内にゃ」 ミャレーは俺の所で飯が食えるので、多少の分前は要らないって事なんだろうが。 実際、ギルドから貰った報奨金には全く手を付けていないらしいからな。 嫌味や挑発にも乗ってこないミャレーに、ニャメナは悔しそうだ。「ちくしょう!」「そう、腐るな。そのうち、ニャメナにもいい儲け話が回ってくるよ」「俺も、いずれは肖りたいね」「でも、ニャメナ――今日の街では随分と男性にモテていたようでしたが……」 プリムラが、街での出来事を教えてくれた。「へぇ、本当か?」「おう! 旦那聞いてくれよ! ここで風呂に入って、小奇麗に毛並みがちょっと良くなったら、男共が寄ってきやがってよ! 以前は、見向きもしなかったくせに」 一度、毛皮にもリンスを使った事があったのだが、殊の外効き目があったようだ。「それでも、モテれば嬉しいんじゃないのか」「てやんでぇ! ふざけやがって!」 不機嫌ではあるのだが、モテた事実には違いはないので、彼女もまんざらでもなさそう。 辺りが暗くなってきて紫色に包まれる中、家の外にテーブルを出して食事の準備をする。 今日は、皆のリクエストに答えて、シチューにした。ベルにも猫缶を開ける。 そして食事が終わった後――昼に作った牛乳プリンを食べてみる事に。「おほっ! 甘い! それに、この香りは……」「プルプルにゃ~! それに、昼に食べたのより、香りがいいにゃ」「ん~、お昼のより美味しく感じるのは、やっぱり香りのせい?」 アネモネは昼に食べた香料なしのバージョンと、頭の中で味比べをしている模様。「確かに、チャワンムシは料理でしたが、これはお菓子です。しかも、まるで貴族が食べる逸品のように上品な……」「まぁ、確かに貴族には受けそうだな。牛乳と卵があれば作れるから、これを売り込むのもいいかもしれないぞ」「ケンイチ、これは何というお菓子ですか?」「プリンだよ」「プリン……」 プリムラは、茶碗に入ったプリンをじっと見つめている。しかし、プリンなら透明な器に入れて、底にカラメルも入れた方がいいだろうか? 個人的には、カラメルが好きではないので、入れたくはないのだが……。