もしかしたらこの日本でも、ちゃんと魔法がかかったのかもしれない。 半妖精エルフ族のマリアーベルは唇をわななかせ、しかし再び開かれた瞳には先ほどまで無かった輝きを秘めている。 マンションの一室にできた小さな秘密基地。毛布にあるふたつの頂点は狭められ、視界はさらに暗くなる。あっと思ったときには、柔らかくて温かな唇の感触を伝えてきた。きゅうと両手の指をにぎられながら。 ふうと熱っぽい息をひとつして、マリアーベルは尚も涙を零しながら僕の膝の上に座る。やはり羽のように軽く、たくさん泣いたせいで子供のような体温をしていた。「残酷で優しくて、でもやっぱりあなたらしい告白だったわ。大変、もうすぐ私は結婚をしてしまうのね」 そうだねと頷きかけて、僕はしばし凍りつく。いま彼女はなんと言った? まさかこんなに早く受け入れてくれたのか? だって人間とエルフ族の垣根もあるし、魔術師ギルドからも将来を期待されているので多くの反対があるはずだ。 なのにあっけなく受け入れられて「しばらく忙しくなりそう。おじいさまへのご挨拶と、私の両親にも伝えないといけないわ」などと耳元で呟いているのは……もしかしてただの冗談だと思われていたりしないかな……。