「あ、見えなくなってしまったわ……」「地下に入ったんだよ。すぐにまた見れるからね」「あら、こうして見るとあなたの【旅路の案内者】と似ているわねえ。なにか共通している理由があるのかしら」 うーん、どうなのだろう。 夢の世界で似たような技能を僕は持っているが、特に日本が影響しているとは考えられないのだが……。「となると僕の【旅路の案内者】も最大レベルになれば座席がつくのかな」「ええ、ぜひ上げてみましょう。そうしたらゆったりと移動を楽しめるわ」 あれ、冗談のつもりで言ったのにな。 さて、新幹線は地上へもどり、ビルから住宅地へと切り替わる。めまぐるしく進む景色、そして速度の変化へマリーは目を白黒とさせていた。「うあー、はやい。どんどん景色が変わって……やっぱり車とは違うのね」「車ものんびり出来て好きだけどね。少し前まで寝台列車というのがあって、泊りがけで移動をしていたんだよ」 ふうん、と興味深そうに聞く少女へお弁当とお茶を用意してゆく。 かごから桃色の鼻を覗かせていた猫もピクンと反応し、僕らの遅めの朝食は始まる。彼女が選んだのは幕の内弁当、そしてこちらはシュウマイ弁当だ。 わくわくを誘う豪華な新幹線、鮮やかな青空、そして幻想的な美しさをもつマリーがいると、僕にとってかなり上級な時間へと変わる。ひょっとしたら上のクラスを選ばなくとも問題無いのかも、と思えるほどだ。 ぱちんと箸を割り、顔を近づけて「いただきます」と囁きあう。近くで見ると薄紫色の瞳は大きくて鮮やかだ。やあ、とうとう新幹線が出発したね。 忘れるなとばかりに「にう」と鳴かれ、思わずくすりと笑いあってしまった。「んー、和風の落ち着いた味っ。猫ちゃんも食べるかしら?」 試しに少女が差し出すと「よこせよこせ」と小さな口をあけ、そしてエビフライをかつかつと食む。 またもゴウとトンネルを抜ければ青空のなかに畑地が広がり、新緑のまぶしさを伝えてくる。それが2人にとって新鮮だったらしく、しばし箸は止まっていた。「マリー、こちらもどうぞ」 振り返る彼女へとシュウマイを差し出すと、薄紫色の瞳を丸くさせ、そして髪をかきあげて可愛らしく口をあけてくる。醤油のついた小ぶりのシュウマイを頬張り、もごもごと「おいひい」と応えてくれると何故か嬉しいものがある。 よかったね、シュウマイ君。これで四天王最弱の意地を見せられたかな。 切り分けたものを黒猫はくちくちと食し、時折あらわれる美しい風景と出会うときだけ箸は休まる。窓の外にうつる景色はめまぐるしく、驚くほど早い。それでも僕らはゆったりとした時間を覚えていた。