総長室を出た後、しばらく全員無言だった。 フルフルさえも、俺の肩の上でぷるぷるせずに静かにしていた。 子ヤギだけが元気に俺の足に軽く頭突きを繰り返している。 恐らく子ヤギにとっては親愛の情の表現なのだろう。「よしよしよーし」「めええぇ」 歩きながら子ヤギを撫でまくると嬉しそうに鳴く。 これから子ヤギの体は大きくなる。そうなると、頭突きも痛くなるかもしれない。 一応、言い聞かせておくべきだろう。「頭突きは人を選んでやるようにしてくれ。それと優しくな」「めぇ」 子ヤギは理解してくれたようだ。賢い子ヤギで助かる。 そんなことをしながら歩いて総長室からだいぶ距離が離れた。 すると、ロゼッタが足を止める。「はぁぁあああ。緊張したあぁ」 そう言うと同時に、垂れ下がっていたロゼッタの尻尾が伸びをするようにぴんと上に伸びた。 そして、ゆっくりと揺れ始める。 この世界の人族の最高権力者である賢人会議のメンバー二人と対面したのだ。 ロゼッタが緊張するのもわかるというものだ。「めぇ?」 ロゼッタに子ヤギが頭突きしに行った。 先ほど言い聞かせたからか、優しい頭突きだ。 この頭突きはロゼッタをリラックスさせるためのものだろう。「子ヤギちゃんありがとうね」 ロゼッタは微笑んで、子ヤギを撫でまくる。「ロゼッタにとっては意外だったかもな」「うん。みんなと違って、あたしは平凡だから……」 この平凡というのは勇者の学院の生徒の中ではという意味だろう。 一般的な基準で考えたら、ロゼッタは類まれなる才能の持ち主で、とても優秀だ。 俺から見たら、勇者の学院の中でも優秀に思える。「ロゼッタも才能あふれていると思う」「ウィルは優しいね! お世辞でもうれしいよ」 そういって、ロゼッタは微笑む。「わたしもさすがに緊張したわね」「これからは会う機会も増えるかもしれないな」「光栄な話ね」 まだ本館の中とはいえ、全員、教団や賢人会議に関する固有名詞を避けて会話している。 良い心がけだ。俺も見習いたい。「何か聞きたいことや相談したいことがあったら、遠慮なく俺の部屋に来てくれ」「そっか! ウィルさまとわたしはお友達だから、部屋に遊びに行ってもいいのよね」 ロゼッタに言ったつもりだったのだが、嬉しそうに返事をしたのはティーナだった。「ああ、というか、俺はティーナもロゼッタもアルティもみんな友達のつもりだが……」「わたしも! わたしもウィルさまもロゼッタもアルティも友達だと思っているわ!」「私もみんな友達だと思っていますよ」「あたしもウィルの友達さ! もちろんティーナもアルティもね!」「……友達。えへへ」 ティーナは一人ニヤニヤしている。 何を笑っているのかと思ったら、どうやら少し涙ぐんでさえいる。 友達が増えたのがよほどうれしかったようだ。 ティーナは友達に飢えていたのかもしれない。「ロゼッタもアルティもティーナも。俺の部屋に気楽に尋ねてきてくれ」「うん! ありがとう!」 寮の部屋は新入生は新入生で固まっている。だから、全員の部屋は近いのだ。 そして俺の部屋はちょうどその中ほどにある。ミーティングするのにちょうどいい。 それからティーナとアルティと別れて、俺とロゼッタは託児所へと向かう。 色々やっている間に、託児所の授業終了時間は過ぎていた。「あにちゃ!」「ゎぅ!」 サリアとルンルンが嬉しそうに駆け寄ってくる。 ルンルンは周りの子供たちに気を使っているのか、小さな声で吠えた。「サリア、ルンルンただいま。いい子にしてた?」「してた!」「ゎゎぅ!」 サリアとルンルンを撫でてやる。ルンルンの尻尾はすごい勢いで揺れていた。 すぐ近くではロゼッタとローズが俺たちと同じように再会を喜んでいる。 子ヤギはサリアとルンルンを少し警戒しているのか、俺の後ろに隠れている。 そして股の間から顔を出して観察している。それを見逃すサリアではない。