「そりゃ顔のお広いことで。そんならお前が使えばいいだろ。俺、指輪なんか邪魔で嫌いだぞ、と」<br><br>その言葉にルードはジャケットの内ポケットを探ると、<br><br>「試作品は2つでセットだ」<br><br>もう一つの輪を摘み上げるように翳した。<br>…あいつらマジで馬鹿じゃねーの。うちの会社大丈夫かよ、と。レノは思わず内心で突っ込む。研究部門の技術者は宝条を筆頭に変人狂人が多いと社内でも評判だが、ペアリング型の防具などタチの悪いブラックユーモアとしか思えない。<br>真面目に考えるのも馬鹿らしくなり、レノは置かれたリングを手に取る。こんな華奢な輪が防具として助けになるのか大いに疑問だが、それよりもレノは、今この場で唐突にルードがこんなものを取り出した事実に疑問を抱いていた。そして、先程までの会話の流れを思い出すにつれ、その疑問は朧げなひとつの仮定へと結びつく。<br><br>「…ルード。実はお前って結構なロマンチスト?」<br><br>「…」<br><br>ルードはむっつりと黙り込んだまま、自分の手元のリングを自分の指に嵌めようとした。レノは自分の指摘が的外れでないことを悟り、可笑しそうに笑いながら勢いよく立ち上がってそれを制止する。<br><br>「待て待て、そうじゃないだろ?わざわざこんなとこまで連れ込んで用意周到にコトを運んだ癖に、今更照れるなよ、と」<br><br>ここまで来たらちゃんとやろうぜ。まずはお前から嵌めろよな。<br>忍び笑いをしながら偉そうに長い指を差し出すレノを、ルードは少し上から見つめる。雨水と埃で薄汚れた真っ黒なスーツに身を包んだ赤毛の男は、幼少のルードが想像した未来の伴侶とはあまりにもかけ離れていた。しかしながら現在の彼にとっては、過去に見た純白の花嫁達よりもずっと魅力的かつ自分に似合いと思われる。<br>ルードはその左手を掴むと、器用な手つきで静かに薬指へリングを通す。ややあって、今度はレノが少し乱暴に。<br><br>「ここで『誓いのキス』もするのかな、と」<br>「…御免だ。スーツが汚れる」<br>「くく、愛を誓い合った傍から酷え奴」<br><br>それは朽ち果てた教会で執り行われる、鐘の音も神父の祝福も賛美歌もない、二人だけの誓約の儀だった。<br><br><br>********************<br>タフネスリングの話。
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