「ああ……、凄かったわ。同じ女性なのに憧れてしまいそう」「凄いよねぇ。僕は今でも続刊が出ないかと期待しているんだよ」 そう伝えると、少女は「えー!」と驚いた顔をし、それからむすりと唇をとがらせる。主人公の持つ熱気にあてられてしまい、続きを読みたくて仕方ないのだろう。「ずるいわ。あれだけの事をして、成し遂げた結果を見せてもくれないなんて。そんな事をされたら、たくさん想像をしてしまうじゃない」「それが良いんだよ。その後に何が起きたのか、想像をして好きなだけ楽しめる。もちろん僕らとしては正解が気になって仕方ないけれど」 ふふっ、とマリーは笑う。それから僕の手を取り「もう寝ましょう」と囁いてきた。 気づけばもう遅い時間だ。もちろん世間一般では早い就寝時間にあたるけれど、僕らにとっては夜更かしにあたる。 それが何故かと言うと……そこまで考えたとき、はっと大事なことを思い出した。「ああ、そういえば今日は第二階層のプレオープンと言っていたかな」「そうだったわ! ごめんなさいウリドラ、さっき何度も鳴いていたのはその事だったのね!」 あれ、そんなやり取りがあったかな。そういえば本を読んでいたとき、鳴いていたような気も……。 ベッドに丸くなっていた黒猫は、ふすーと呆れたような息を吐く。それから尻尾でぽんぽんと布団を叩いて「早くいらっしゃい、もう始めているわよ」と誘いかけてきた。 使い魔が呼んでいるように、僕らは日本だけではなく夢の世界で遊ぶことが出来る。 互いの世界は時間がちょうど反転しており、夜の十時が朝の十時に切り替わる。そこは剣と魔法が当たり前であり、こちらとまるで異なる世界だ。しかし、どちらであろうと僕らが楽しむことに変わりは無い。 エルフの少女は僕と抱き合って眠ることで同行でき、ただの夢ではなく異なる世界への扉を開く。というよりも、彼女は本来であれば幻想世界の住人なのだから、日本へ招いていると言ったほうが正解か。 布団を持ち上げて、肌触りの良いシーツへと身を滑らせる。 先に待っていた少女は頭を持ち上げたので、その隙間に僕の腕を入れる。すると、いつものようにちょうど良い枕へと変わった。 部屋にはダウンライトの明かりだけが残され、秋ならではの居心地の良い空気を覚える。もぞもぞと頭の位置を調整しながらマリーは話しかけてきた。「ふうん、これが読書の秋ね、しっかり堪能したわ。まるで図書館にいるように落ちついていて、文字がすっきりと頭に入るの」「それじゃあ今夜はどうしようか。絵本はお休みしておくかい?」 エルフは口元をほころばせ、それから内緒話をするよう耳元へ囁きかけてくる。こしょこしょとくすぐったく、聞こえてくるお願いも可愛らしくて参ってしまう。「……それじゃあダイヤモンド隊には、もうしばらく遊んでいてもらおうか」「ええ、そうしましょ。こちらは読書の秋を楽しまないともったいないわ。ええと、続きはこれね」 少女は腕を伸ばし、図書館から借りてきた枕もとの絵本を掴む。 すると僕の視界は暗くなり、ふかりと柔らかなものが鼻先に触れてしまう。こればかりは流石に赤面をしてしまうが、露になった視界ではマリーが「ごめんなさい」と頬を赤らめ、小さく舌を覗かせていた。 甘く漂う女の子の香り、それに肩へと乗せてくる頬も身体も柔らかい。 僕としては読書の秋を堪能したいけれど、なかなかそうもいかないらしい。ただ、エルフさんとしては過ごしやすいこの時期を、気に入ってくれたように思える。 絵本を読み始めると同時に、僕らに挟まれるよう丸くなっていた黒猫は、ふすんと諦めぎみの溜息を吐いた。