理恵も妊娠四ヶ月を過ぎたあたりだけど、買い物帰りに荷物を持っていると真っ先に気付いた住人、それも階の違う人であっても荷物を部屋まで持ってくれるし、全ての住人が自分の家族のように妊娠したことを祝福してくれた上にいろんなアドバイスやサポートまで家族同然にしてくれるらしい。 だから理恵も本心から『初めての妊娠なのに一度も不安になったりすることなくて、出産へと一日一日近づくことが嬉しく感じられる』という話をしていた。そんな優しい気遣いのできる人ばかりということは、やはり大家さんの人を見る目がしっかりしてるということなのかもしれない。 ただ、そんな話を聞いてひとつ納得したことがある。そういう優しい住人達に恵まれたから、理恵の考えが正反対と言っていいほど変わったのかもしれない、と。 私たちが大学卒業前に友人たち数人と一緒に海外旅行に行った時のことだった。食事をしながら一緒に旅行に行った友人たちと将来の話になったんだけど、女ばかりということもあってそれぞれ結婚についての考え方を話し合ったことがあった。 その当時の理恵は結婚生活について今の私と同じように、経済状況にもよるけど結婚して当分は二人暮らしで新婚生活を思う存分楽しんで、三十歳を超えて落ち着いてきたら子供を産んでもいいかな、というような話をしていた。 だけど、それから数年しか経っていないのに結婚式を控えた理恵の考え方が別人のように変わっていた。 できるだけ早く赤ちゃんを産みたい。 若いうちに最低五人は産んで、子育てをがんばりたい。 愛する人の子供たちと一緒に賑やかで楽しい生活にしたい。 ……と。 まぁ、ちょっとばかり陶酔したかのように表情を緩ませて頬を染めて言うものだから、さすがの私も少し引いてしまったけど。 さらに結婚式の二次会ではお酒に酔っていたのか、調子にノッた女友達に煽られて、とんでもないことまで宣言したのには私の方が恥ずかしくて照れてしまった。『私は今夜朝までめっちゃ子作りを頑張って絶対に妊娠しますっ!』