「フィーア、呼んでくれてありがとう!」けれど、混乱している私とは対照的に、黒竜は朗らかに声を掛けてきた。「ザビリア……? だよね?」うん、高くて透き通るようなこの声は、ザビリアのものだ。「え? 僕、もう忘れられちゃったの?」しょんぼりと大きくて美しい黒竜がうつむく。私は、慌てて黒竜の鱗を撫でた。「い、いや、そうじゃなくて。ザビリア、あなた大きくなってない? 翼も体も立派になったし、鱗はぴかぴか光っているし、4カ月前とは全然違うんだけど」「ふふふ、成長期だからね。大きくもなるよ」「成長期? え、ザビリア、あなたいくつなの?」「0歳」「ゼ、ゼロ―――!!」まさかの、赤ちゃん宣言!竜って長生きっていうから、もっと年を取っているかと思っていた。「ザ、ザビリアちゃん、だいじょぶでちゅよ――。フィーアママが面倒みまちゅからね。まんま、たべゆ――?」「ふふふ、竜と人間の年齢は異なるから、人間で言ったら12~13歳くらいはあるよ。あと半年もかからずに、成竜になるし」「あ、そ、そうなのね。え、というか、まだ大きくなるの?」「うん、今の倍くらいにはなるだろうね」う――ん。私は、頭を抱えてしまった。ザビリアが他の魔物に虐められないか心配だったから、本人の同意があれば連れて帰ろうと思っていたけれど、この大きさはちょっと難しいんじゃないかしら。そもそも、私の部屋に入りきれないし。考え込む私を不思議そうに見つめると、ザビリアは尋ねてきた。「何か困ったことでも起きた? 僕が手助けできる?」「ザビリアさえ良かったら、一緒に帰ろうかと思ったんだけど、あなたが思ったより大きかったから、建物に入らないなーと思ってね」「え? 僕を連れて行ってくれるの?」ザビリアの青色の瞳がキラキラと輝き出す。「うん、そのつもりだったんだけど、ザビリアの大きさが……」「だったら、僕、小さくなるよ!」そういうと、ザビリアは、ぐんぐんと小さくなった。そして、最終的には、私の両の掌に乗るくらいの大きさになった。「ザ、ザ、ザ、ザ、ザビリア。あ、あなた、何やっているの? え、ええ、体は大丈夫? そんなことして、成長期に影響はないの?」「うん、大丈夫。これは、怪我をした時に行う幼体化ではなくて、縮小化だから」「へ、へ――……」正直、違いがよく分からなかったけど、話を合わせてみる。問題は、それよりも……「ザビリア、色は変えられる? 黒い翼持ちの生物って黒竜しかいないから、いくら縮小化しても黒色はまずいんじゃないかしら」言うと、ザビリアは見るからにしょんぼりとした。「……ごめん、フィーア。僕は、黒い色に誇りを持っていて、その気持ちが邪魔をして、色は変えられないんだ」「そっか。だったら……うふふ、いいことを考えたわ! ザビリア、鳥型の魔物を狩ることってできる?」「簡単な話だけど、ねぇ、フィーア。僕は、あなたの良い考えが良い結果に繋がった例を見たことがないのだけど」言いながらも、ザビリアは元の大きさに戻る。そうして、「ちょっと耳をふさいでいてくれる?」と言われたので耳をふさぐと、ザビリアはかぱっとその大きな口を開け、咆哮した。「グオオオオオオオオォォ―――――!!」大地が揺れ、空気が震える。そして、遥か遠くの木から何かがぼとぼとと落ちていく。「ああ、やっぱり入口近くには魔物はいなかったね。ちょっと、回収してくる」そう言うと、茫然としている私を残して、ザビリアは大きな翼で飛び立って行った。はは、は、咆哮一つで魔物を倒しちゃったわ……私は脱力して、くてっと地面に座り込んでしまった。どうしよう。ザビリアって、思っていたよりすごく強いんだけど。まずい、この前見た時と全然迫力が違う。前のザビリアなら、従魔と紹介してもまだ何とかなった気がするけど、今のザビリアはダメだ。これは、大問題になるレベルな気がする。他の騎士たちの従魔のレベルが分からないから、はっきりとは言えないけど、明らかにマズい予感がびんびんする。……と、取りあえず様子を見ようっと。しばらくすると、ザビリアは1ダース程の魔物を咥えて戻ってきた。私は、その中から2羽の青い鳥型の魔物を選ぶと袋に入れた。「ザビリアは、今すぐ私と来て大丈夫なの? 誰か声を掛ける相手とかがいるなら、都合がいい時に迎えに来るよ?」私の質問を聞くと、ザビリアはしょんぼりとしてうつむく。「大丈夫。僕は、ずっと一頭きりだから……」「そ、そうか……。じゃ、小さくなれる?」言いながら、団服のボタンを上から幾つか外す。