こいつがエルンテか? だとしたら残念だ。タイトル保持者となって皆にちやほやされた結果、ここまで高慢になれるものなのか。「貴女、ディー・ミックスですね」「そうよ。貴女は誰? ダークエルフがこんなところに居ていいの?」「狐と呼ばれていますよ」「狐?」「虎の威を借るしか能のない獣風情がよく囀る」「……良い度胸ね、貴女」ユカリが真正面から喧嘩を売る。エルンテではなくディー・ミックスと呼ばれたエルフの女は、0.5秒とかからずにインベントリから弓を取り出した。 おいおい、ここでやり合う気か? と俺が疑問に思った直後、ディーから殺意が奔流する。うわあ、こいつ本気だ。「馬鹿者」「きゃっ!」 瞬間、ディーの後頭部にゲンコツがめり込む。 彼女の背後から現れたのは、白いヒゲを胸元まで蓄えた仙人みたいな爺さんだった。「弟子が失礼をした」「お師匠様! 頭を下げることなどありません!」「お前が下げさせておるのだ馬鹿者が!」「きゃあ!」 また殴られている。そして一緒になって頭を下げさせられている。 誰だこのジジイ? と口から出かけたところで合点がいった。こいつがエルンテ鬼穿将か。「別にいいけどね俺は。ここでメシ食えれば。ただ弟子の教育はもっときちんとした方がいい」「ははは、耳が痛いわい」「貴方、何よその口の利き方は! 言っておくけど私の方が何倍も年上なんだから! それに貴方こそ、その奴隷の教育をきちんとするべきだわ! それとも性奴隷には教育しない主義なのかしらね!」 こいつ年上の方が無条件で偉いと思っているタチか? そもそも鬼穿将が偉いのはさておいて、その弟子がここまで威張り散らせるものなのか? 極め付きにダークエルフ差別と来たもんだ……数え役満だな。「姉さん、いい加減にした方がいいですよ。お師匠様が怒っています」「でも、こいつら失礼だわ! ジェイもそう思うでしょう?」「ですが、お師匠様が……」 エルンテの横から、ディーによく似たショートカットの女エルフが出てきた。ジェイというらしい。どうやらディーの妹のようだ。「仕舞いじゃ仕舞いじゃ。姉妹の話は仕舞いじゃ。なんちって」 不意の駄洒落に、ミックス姉妹はガクッとずっこける。 おどけたエルンテは咳ばらいをひとつ、真面目な顔で俺たちの方を向いた。「済まんのう、迷惑をかけた。お詫びにここは儂が払おう。どうじゃ、和解の印に食卓を囲まんか?」「何故このような者たちと!」「黙っとれぃ!」「うぎゃっ」 ゴツーンとエルンテの鉄拳が飛び、ディーは涙目で黙り込む。 ……この状況で、食事を一緒に? このジジイ何考えてんだ? 俺はワケが分からず、エルンテの顔を観察する。ニコニコと、人の良さそうな微笑を浮かべていた。掴みどころのないジジイだ。 シルビアとエコは未だ困惑顔。ユカリとキュベロは怒り顔だった。「平和な休日」を思えば、共に食事を取るという選択肢はない。 だが、俺は興味に負けた。この世界のタイトル保持者がどのような者か、この目で見てみたくなった。「いいぞ。俺はまだ和解したとは思っていないがな」 若干の敵意を込めてジジイを睨む。エルンテはニッと笑って口を開いた。「素晴らしきかな。では昼餉としよう」