むしろ良い事の方が多い。何しろあの炎龍の角や牙を売れば、そんな事は些事だと思えるような潤沢な資金を得る事が出来るだろう」 ……………………………………何故。「そして、王都付近にあった炎龍の巣。今まで誰も手を出せずにいたものだが、危険なこの任務を穏健派に属するフルブライド家、それに仕える人間が被害も出さずに完遂した事は非常に大きい。これを機に穏健派の発言力は非常に大きくなるだろう」 ……………………………………何故この人は。「ブライト君も娘も勉強になった事だろう。そして私は今、ポーア君に更なる期待をしているのだよ」 何故この人は小さな赤ん坊を抱えながら俺に話し掛けてくるのだろうか?「ふふふふ、よく寝ているな」 ポルコの部屋に入った時、ポルコは肩の荷を下ろし、その中から一人の赤ん坊を出した。 そして赤ん坊を抱きかかえ、俺の非を許し、功績を称えてくれた。 白い赤ん坊服に包まれた男の子とも女の子とも思えない子に、優しく微笑みかけている。「ふふ、聞かないのかね?」「……聞いてもいいもんなんですかね」 その赤ん坊の事を。「私はこれでも焦っているのだよ、ポーア君」「焦り?」「妻が他界してから気付かされた子供の教育の大変さ……身に染みてわかっているのだがね?」 そうか、フェリス嬢の母親は早くに亡くなっていたのか。 それも原因とは言わないが、その教育が性格に出てしまっているかもな。 だがポルコは何を言いたいんだ? 一体何を焦っているのだろう?「教育の全てを知っているとは言わない。だが、育児とは完全に別物だと思わないかね?」 なるほど、そういう事か。 何らかの理由でこの赤ん坊を預かった。きっとそういう事なんだろう。 俺は悪い予感を脳裏に過らせながら小さな溜め息を吐いた。「……その子、一体誰から預かって来たんです?」 もらったのかとか攫ったのか、とは聞けないしな。「はははは、申し訳ないがそれを言う事は出来ないのだよ」 どんどん悪い方向へいってる気がするが、ポルコは俺に何を言いたいんだ?「時にポーア君」「何でしょう?」「育児の経験はあるかね?」 …………ん? ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆「マスターマスター大変です!」「どうしたシロ?」「見てください! 卵が! 卵がコロコロしてます!」 ポチの前脚の先には白い卵。 そしてそれが脈動するように動いている。 昨日の今日で生まれるとか冗談だろ? こうなると、昨日もし卵を割っていたら…………うぅ……。 嫌な想像をしてしまった俺は、頭を振ってそれを追い出した。 卵の中からコツコツと音が聞こえ、一生懸命に外の世界を目指しているようだ。 いざ誕生すると怖いのか、ポチは俺の膝元から腹、肩まで登り、俺の頭に前脚を置いてビクついている。 首が重いってーの。 ただでさえ腕が疲れてるっていうのに……!「お、割れ始めたぞっ」「何でも来やがれですよ!」 身構えるポチ。いや、流石に敵じゃねぇだろ。 小さくつつき、徐々にその姿を俺たちの前に現す。 …………ところで、いつの間にか卵が白から黒になってるのは気のせいだろうか? 殻を破る嘴も……何だかドス黒い。 身体も何故か深紫に近い黒。 おかしい、どこかで見たフォルムだ。「あ、あ……立ちますよ!」 お前も俺の頭の上で立つんじゃない。「ぴよっ」「わんっ!」 ビビリ過ぎだろお前! その年で生まれた瞬間の孔雀に威嚇するとか何考えてるんだ! ………………………………孔雀、だよな?「ぴよっ」「わんっ! ですよ!」 むぅ……既にちょっとした魔力をこの雛から感じる。 この感覚は、今俺の頭の上でキャンキャン喚いているどこかのチキンさんと似ている。 非常に似ている。そっくりだと言っても過言じゃない。 孔雀、だよな? そう思い鑑定眼鏡を発動し、雛を見てみる。 ―――――――――――――――――――― ??? LV:1 HP:2 MP:2 EXP:0 特殊: 称号:紫死鳥・番鳥(仮) ―――――――――――――――――――― …………ん?「ママママママスター!?」「何だよ一体」「何で赤ちゃん抱き抱えてるんですかっ!? ちょ、どこから攫って来たんですかっ! 馬鹿マスター!」