ずらりと並んだ食材は、ウリドラにとって初めて目にする光景だ。品揃えが多く、そして清潔な店内の様子には、さしもの竜も瞳を丸くさせる。「てっきり良い匂いがするところと想像しておったが……ふうむ、驚くほど食材が綺麗に並んでおる」「衛生面をしっかりと管理しているからなの。日本ではこれくらいが普通なのよ」 などと日本暮らしの先輩であるマリーは、腰へ手を当てて嬉しそうに教えていた。 明日の旅行用おやつ、そして迷宮でも調理できそうなもの、今夜の食材……と探しているうちに精肉コーナーへとたどり着く。そこにはいつものように軽快な音楽がスピーカーから流されていた。 うん、とマリーはひとつ頷いてからこちらを振り返る。「前にも思ったけれど、ここの音楽は元気があって良いわね。手を握って、こういう風に踊っている感じがしないかしら?」 よいしょ、よいしょと軽快な音楽に合わせ、両手を持ち上げているエルフの姿に、僕はもう限界だった。可愛すぎて全身がプルプルと震えてしまう。 ぐうっ、どうしてこう自然に頬を破壊して来るのだろう、僕の部屋のエルフさんは。「?? どうして顔をそむけているのかしら。ねえ、こういう感じがするでしょ……」 ぴたりと少女の声が止まったのは、通り過ぎる老夫婦から微笑ましく見られたせいだろう。かあっと顔を赤くし、すぐに僕の背中へと隠れてしまう。「わ、恥ずかし……っ! きっと浮かれていたのね、大型連休のせいで」「いやいや、すごく良かったよ。とても可愛かったし、もっと見たいくらいかな」 そう言うと、少女の唇は「へ」の字に曲がる。 とはいえ、ぺしぺしとエルフから腕を叩かれ、湯気が出そうな様子もまた良いのだけれど。いっそのこと頭を撫でたいくらいだ。