クェンティン団長と私は2人でザカリー団長に向き直り、互いに自分の正しさを主張したけれど、ザカリー団長はじとりと私たちを見つめたまま、しばらく声を発しなかった。「……ザ、ザカリー団長?」心配になって声を掛けると、ザカリー団長は目を瞑る。「オレは今、お前らの常識レベルを把握しようと鋭意努力中だ。お前らの会話が、オレには全く理解できない。すげぇな、オレの分からない話をこれだけできるとは、……お前らは、マジすげえわ」「え、そ、そうですか? ザカリー団長に褒められると、嬉しいですね……」褒められて思わず顔がにやけると、ザカリー団長はかっと目を見開いた。「よし、オレが悪かった! 今のは、婉曲な嫌味だ!! お前に通じると思ったオレが、間違っていた! フィーア、オレはお前を褒めていない。褒めたように見せかけて、真逆を表現する高等テクニックだ……というか、頼む、こんなことを説明させないでくれ。もう、オレはどうすればいいか分からねぇ!」頭を抱え込むザカリー団長の肩に手を置くと、慰めるかのようにクェンティン団長が声を掛ける。「ザカリー、お前は今まで見えるものしか受け入れられない不感症だった。だが、ここで、お前は大きく飛躍するんだ。フィーア様の偉大さを感じろ! そして、受け入れろ! そうしたら、お前もオレのように世界を正しく理解できるようになるぞ!!」「うるせーよ! 既に、お前が何を言っているか分からねーから!! いいから、お前は黙っていろ!!」言い争う2人の騎士団長を前に、駄目だなこれは、と私は建設的な提案をすることにした。「二人ともいい加減にしてください。……こうなったら、ご飯を食べるしかないですね」「……は?」言われた意味が理解できないようで、ぱちぱちとまばたきを繰り返すザカリー団長に向かって私はにこりと微笑んだ。「ザカリー団長もクェンティン団長も空腹で、ちょっとしたことでイライラしているんですよ。ぷふふ、子どもみたいですね。まぁ、待っていてください。私が団長たちのお昼をもらってきてあげますから」「いや、待て、フィーア……!」後ろでザカリー団長が叫んでいたけれど、私は聞こえない振りをして食事を取りに行った。……ふふ、います、います。お腹がすいたら機嫌が悪くなる人って。まさか、ザカリー団長がそのタイプだったとは思いませんでしたけど。ザカリー団長って、騎士団長なのに子どもみたいですね。おかしく思いながらも、一番近くにいたクェンティン隊の騎士たちに近付き、3人分の昼食をもらう。「ありがとうございます! 準備も手伝わずに、食事だけもらいにきてすみません」申し訳ない気持ちで謝罪をすると、なぜだか恐る恐るという感じで私をちらちらと見ていた騎士たちが、勢い込んで話し始める。「ばっ、な、何を言っているんだ! お前にお礼を言いたいのはオレたちの方だから。フィーア、お前は………………、い、いや何でもない。つ、つまり、あれだ。いっぱい食え!」「そ、そうだ。足りなくなったら、取りに来いよ。絶対に、遠慮なんかするなよ!」「はい、ありがとうございます! ふふ、騎士の皆さんって、親切ですね」