「強くなるほど、姉貴の領域に近づける気がしなくなってくぜ……」 しかし、そう口にする樹はどこか嬉しそうだった。「最初から特別な人間など存在しないわ。小さな行為の積み重ねで作られた地層が、気がつけば唯一無二の強力無比となっているだけ。そしてそれは、意識と習慣化で誰もが到達しうる領域よ」「アタシにもわかる言葉でお願いします」「正しい努力を毎日コツコツ積み重ねるのがとても大事、という話よ」「ん? それって……普通のことじゃねーか?」「その”普通”が、意外と難しいのよ」 この間、イヴは必死に思考を巡らせていた。(異界の勇者……つまりトーカと共に召喚された者たち……しかしトーカは、今は身を隠していると言っていた……) 魔群帯の中で、トーカは少し異界の勇者たちの話をした。 おそらくすべてを話してはいないが……。(トーカは同郷の勇者たちからは死んだと思われているらしい。それこそ、生存そのものを隠しておきたいような口ぶりだった……ならば、ここでトーカの話題を出すのは避けるべきか)「私たちを出し抜く思考をしている――と考えるのは、無粋かしら?」 姉の言葉に、ドキッとする。 心を見透かされている感覚。「――、……とある者のことを、考えていた」(む?) 声が、出た。「しゃべった」