「さぁ、私には住む世界が違いますので」「キィィ!」 夫人は、俺が思い通りにならないのに腹を立てて、湯船の水面を脚でバシャバシャとした後、そのままお湯の中へ沈んでしまった。 話は解るし、可哀想だとは思うのだが、俺にメリットが全くといっていいほど何もない。 それに後で面倒事になるのは、目に見えてるからな。俺は小屋から出ると、外にいたプリムラに話しかけた。「プリムラ、夫人は何か鬱憤が溜まっておいでだ。話し相手になってくれないか?」「解りました。何か商売の良い話をいただけるかもしれません」「これ、石鹸とリンスな」 一緒に、タオルとバスローブも渡す。夫人は友達もいないようだし、話し相手なら同性の方が良いだろう。「俺らは、最後に旦那と一緒に入るかぁ」「そうだにゃ」「アネモネも、プリムラ達と一緒に入ってもいいんだぞ?」「私も、ケンイチと一緒だから!」 2人が風呂から上がってくるのに備えて、ジェットヒーターを設置しておく。 風呂がある小屋の中は静かだ。2人が裸の付き合いで何を話しているのは不明。 俺は家に入ると、ベッドと寝間着の用意した。夫人用のベッドも出す。 そして飲み物だ。風呂あがりといえばフルーツ牛乳。 しばらくして、2人がバスローブを羽織って小屋から出てきたが、俺の顔を見た夫人は、そっぽを向いてしまった。 俺に無視されたので、彼女のプライドが傷ついたのだろう。「カナン様、この魔道具から温かい風が出ますので、御髪をお乾かしになって下さい。使い方は、プリムラが修めておりますので」 夫人はプリムラに任せて、俺達も風呂に入る事にした。 お湯が少なくなっているので少々足して、アネモネの魔法で再び温める。「まったく魔法ってのは、便利だねぇ」「獣人で魔法を使えるやつはいないのか?」「聞いた事がないよ。大体、字も読み書き出来ないんだからさ」「う~ん、そうか」 まぁ、適性があるって事だよな。皆で裸になって風呂に浸かる。「このお風呂は一緒に入れるからいいね!」「そうだな」 俺とアネモネ、隣では獣人同士が一緒に湯船に浸かっている。「おらクロ助、もうちょっと端へいけ、俺の長い脚が入らないねぇだろ」「ウチとそんなに変わらないくせに何言ってるにゃ。それなら、ウチの長い尻尾の方がはみ出るにゃ」 いつも喧嘩をしているように見える2人だが、意外と仲は良さそうである。 戻ったら風呂を作りなおすか。お湯もアネモネの魔法で沸かせるようになったしな。