るほど、人は嘘つきになる。 夕べ、本多劇場でみた 加藤健一事務所「誰も喋ってはならぬ」は、嘘をつきとおせば何でもない日常が、ほころびを口にしたばかりに起こるすれ違い喜劇だ。 本音など知ってしまわないほうがしあわせなことは多い。「ああ、もちろん君の話をきくよ」なんて好い人ぶることも禁物だ。 今宵のアトリエファンファーレ高円寺 yataPro「世界を繋ぐ方法」は、近江谷太朗が女優であり脚本家 である笹峯愛に、彼女が今までに書いたことがないようなものとオーダーした新作。 この中にでてくる3人のおとなは、ある意味 みんな嘘つきだ。 本音で話しましょうと言う前向きで元気なヒロイン柚子でさえ、再びの癌に侵された我が身のことには蓋をし、他者のことばかり考える。 子どもみたいなダメな中年正平は、辛さを酒でごまかす自堕落な日々を送っているが、彼だって自分に正直なわけではない。 大人になれば、背負うものは複雑になる。ほころびは一つや二つではない。何度も訪れる選択をまちがってしまったとき、ほころびはまた大きくなる。 ただ、そんな傷だらけの人生であっても、ひとは生きなくてはならないし、笑うことも、怒るもあって、ふりかえればまんざらでもない日々を送っているのだ。 柚子を演じた高橋由美子は、博多でみた益岡徹の「ショーシャンクの空に」のリタヘイワース役からのファンだ。 私たちの世代だと、彼女は舞台女優というより可愛らしいアイドルの印象が強いが、今回も見事であった。アイドル臭さが完全に抜け、いい女優さんになったなぁ。 たった3人の役者、幕間も場転もない舞台。けれど、明かりと役者の動きで上手くつなぎ2時間という時間をわすれさせた。 ハッとさせられ最後にツンツンと心の深いところをやられ、涙が流れた。それは嫌な涙ではない。 小さな芝居小屋を出て駅に着くと、そこには思いがけずクリスマスイルミネーションが光っていた。 このイルミネーションに、また、涙がでる。 再発という言葉が常に頭のすみにある私もまた、傷つかないために、傷つくないために、嘘をつく。 精一杯いきたから未練などないなんて嘘だ。来年も、再来年も、生きたい。同じように、またクリスマスを迎えたい。 永遠はないとわかっていても、子どものように永遠を信じたい。
それだけだ。