それが終わればゲオルギーネに唆された貴族達にアウブ交代を知らしめるためにエーレンフェストへ向かうとフェルディナンドは言った。「フェルディナンド様、そのままで戦いの場には出られないでしょう。お召し替えの準備はこちらにございます」 ユストクスが木箱の上にマントやいくつかの魔石や薬の準備を終えているのが目に入った。わたしが準備の良さに驚いていると、ユストクスはわたしを見ておどけたように微笑む。「アウブ・アーレンスバッハ、大変無礼とは存じますが、フェルディナンド様の自室は荒らされておりますし、この緊急時です。アウブの執務室をフェルディナンド様のお召し替えのために使わせていただきたいのですが、許可をいただけませんか?」「許可します。わたくし達は出ておきますね」 自分の側近を引き連れて、わたしはアウブの執務室を出た。けれど、扉の外側には誰もいない。ハンネローレ達はどこにいったのだろうか。 ……エックハルト兄様が声をかけていたはずなのに、ダンケルフェルガーがいないなんて……。 何かあったのだろうかと思ったら、負傷したダンケルフェルガーの騎士達がぞろぞろとやって来た。「ローゼマイン様、フェルディナンド様はご無事でしたか?」 ニコリと微笑んでそう言ったハンネローレは特に傷がないけれど、後ろの騎士達は結構怪我をしている者が多い。「ハンネローレ様、ダンケルフェルガーの騎士達のお怪我はどうされたのですか?」「ランツェナーヴェの兵士は何ということもないのですけれど、あの船の攻略に手こずっています」 貴族街をうろうろしていたランツェナーヴェの兵士達を蹴散らしたり、ランツェナーヴェの館へ攻め込んだりしている間はよかったが、船に逃げ込んだ者を追いかけたところで船から武器が出てきたらしい。船に近付けまいとするように、細い銀色の針のような物が大量に飛び出す武器が使われたそうだ。「船に戻るランツェナーヴェの兵士と囚われた娘を装って、十人ほどの騎士を中に送り込んだのですが、オルドナンツも届きませんから……」