滋賀県に昭和天皇が来られた折に、某企業が陛下をお迎えし、御挨拶を申し上げる為の小室をデザインした。滋賀県の県花は紅葉、楓であり、造作材、家具材はすべて上質の楓材を使用している。また壁面の最終仕上材である裂地も紅葉の葉を散らしたデザインにし、絹のような風合の繻子織で、上品な伝統的和」の系統でまとめている。小さな部屋なので、付柱もなくし、天井廻縁も設けていないが、伝統的な「納り技法」で言う「長押」の持っている「厳格さ」を現代の「カタチ」に置きかえて表現する為に、写真に撮っているような、細く鋭い現代の「長押」と、それをより強調するように目地を上下に2本設けて横桟のみの横繁障子と共に、横方向への線の拡がりを強め、小室の狭い印象をなくしている。また正面飾棚部の三方見切縁は伝統的な「納り技法」である「刀刃」ハッカケの「カタチ」に少し丸みを持たせて柔らかな印象を与え、横方向への妨げにならないようにしている。
このように様々な「組み合わせ」で、感覚的に使っていた手法が、図-2のように整理されることで、より明解になり、「和」をデザインする上で有効な良い方法であると思う。しかし、ここで一言だけ付け加えなければならないことがある。それは図-2の左側に置いた伝統的な「和」についての情報は知識の宝庫である図書館の中で見つけ出せるが、右側の新しい「和」の部分で、デザインとして本当にふさわしい、新しい「カタチ」を生み出し、新しい「素材」を発見し、新しい「色彩」を創り出せるかどうかは、デザイナー努力と能力にかかっている。また「カタチ」、「素材」、「色彩」というものは実に微妙で繊細な表情を持っている。デザイナーは同じように繊細な感性を持って、言葉、映像等で適切なコンセプトをまとめ上げると共に、それを人々に感知させる「カタチ」、「素材」、「色彩」を細く微妙に、そして適格に表現できなければ、その資格はない。