もし買った時より株価が急激に下がれば、資金が十万円しかないせいで、立て直しが出来なくなるという事だ。 これが資金十万円という縛りがもたらす、もう一つの効果。 一度失敗すれば立て直しがほぼ不可能というルールにする事により、万が一にも平等院システムズの株以上の利益を出す事を避けたのだ。 おそらく急上昇するであろう平等院システムズの株価に対抗できるとすれば、堅実な株では無理な為、急上昇が望める株――尚且つ、株価が低い株を選択するしかない。 しかしここで厄介になってくるのが、アリアが縛りと言った事以外だ。 あいつは縛りと言っておきながら、雲母に気付かれないないまま行動を制限できるように、他の決め事も作っている。 そのうちの一つが、二週間という期間だ。 平等院システムズの内容は、発表されてから最低でも数週間は話題が絶えないであろう事なのに、何故アリアが二週間という短い期間にしたのか。 それは、アンチウイルスソフトが発表されてから十分株の利益が見込めた上で、雲母に株の戦略を練る時間を与えないためだ。 雲母にどれだけの株の知識があるかを、アリアが把握しているとは思えない。 しかし、恐らくはどれだけ株の知識があろうと、関係なかったのだろう。 今回平等院システムズが出す株の利益を超えるには、堅実な株では意味が無い。 そうなると、新たに株価が急上昇をするであろう安い企業を見つけるしかない。 しかし先ほども言った通り、十万円で沢山買える株価の株は安定していない。 しかも、勝負に勝てるくらい確かな利益を出すためには、安定していない企業の一つの株の流れを読むだけでは足りない。 何故なら、期間内に株が上がらない可能性だってあるのだ。 だから、要所要所で株を買って売ってを繰り返すにも、複数の企業の株の流れを読まなければいけない。 となれば、複数の企業に対してじっくり調べる時間と、株の流れを読む時間が欲しい。 だからアリアは、その時間を雲母に与えなかった。 普段から大きな利益を見込んで株を読んだり調べている人間ならともかく、安定した収入を得ようとしている人間は、ある程度は情報を仕入れては居るかもしれないが、しっかりと把握しているわけではないだろう。 それは勉強のために株の流れを読んでいた、雲母にしても同じだった。 アリアからすれば、昔の雲母の印象が強く残っている為、荒い株に興味を示していたとは思ってなかったのかもしれない。 だから、時間さえ与えなければ大丈夫という判断だったんじゃないだろうか。 ましてや俺達には学校がある。 そして今の時期はテストがあるから、学校を休むという訳にもいかない。 アリアが俺達のテスト期間や終業式を知っていたとは思えないが、どの学校も時期は同じくらいだという判断だろう。 だからアリアは、おそらく終業式であるだろう日の、次の日を勝負決着日に指定したのだと思う。 学校があるうちは満足に行動がとれないから、学校が終了する次の日には勝負を終わらせたかったという事だ。 企業について調べる時間、株の流れを読む時間を十分に確保せずに、株価が安い会社を買うという賭けに出る――という手もあるにはあるが、雲母には絶対そんな選択は出来ない。 いや、恐らくただの勝負ならそれしか勝機がないとすれば、雲母はアリアに勝つ為にそんな戦略をとった可能性が高い。