……神殿で育ったらしい彼女をアウブがよく見つけたものだ。 私は内心で領主の評価を上書き修正しつつ、周囲の貴族達を見回した。これだけたくさんの貴族がいて、次々と挨拶を交わすのだ。よほど印象的でなければ覚えてもらえないだろう。自分の洗礼式の時を思い返しても、洗礼式で一度会っただけの貴族達を全て記憶するなど不可能だ。 ……私は父上がフロレンツィア様の側近で、母上がローゼマイン様の側仕えとして紹介される予定なので、多少は興味を持ってもらえるかもしれないな。 そう考えたところで、少し不思議な気分になった。私がこのように他人に興味を持ったことは初めてだったのだ。自分の変化に私自身がおそらく最も驚いていると思う。 明日から神殿で護衛騎士に就任する者達が紹介され、領主夫妻の側近達でよく顔を合わせる者達が挨拶する。その後、母上やリヒャルダ達のように城に入ってから付くことになるローゼマイン様の側近達、ボニファティウス様を始めとした親族が紹介される流れらしい。私が紹介されるのは親族枠だ。「ローゼマイン、ここにいてもつまらないから遊びに行くぞ。来い」 紹介される場を心待ちにしていたというのに、ヴィルフリート様に連れ出されたローゼマイン様がホールに戻ってくることはなかった。虚弱なローゼマイン様はヴィルフリート様の動きについて行けず、意識を失って大怪我をしたらしい。フェルディナンド様から癒やしの魔術を受けて部屋に運び込まれたそうだ。 ……ローゼマイン様に怪我をさせただと?……ヴィルフリート様は要注意だな。 自然と敵視してしまったことを自覚して、私は自分の手を見つめた。 ……引きずり落とすか……。ローゼマイン様をアウブにするために。鈴華さんの誕生祝いSSです。せっかくなので、リクエストの多かったハルトムートとローゼマインの(一方的な)出会いを書いてみました。