「うん」 裂け目の入り口は5m程だが、中へいけばどんどん天井が低くなるのだろう。 入り口に方向探知機の親機を置いて、武器を整えると暗闇の中へ脚を踏み入れる。 ポケットから方向探知機の子機を出すと、正確に親機の方を指している――こいつは便利だ。 こんなのはシャングリ・ラでも売ってないからな。 文明の利器が凄いのは当然だが、魔道具ってやつも負けてはいない――科学で説明出来ない動きをするのだ。 例えば、電波を使えば科学の力でも方向探知機を作れるが、岩の中や水の中まで正確に方向を示す事は出来ない。 だが、この魔道具の方向探知機なら、それが可能になるのだ。「この明かりはいいにゃ! 頭に付けるので両手が使えるにゃ」 前衛のミャレーはコンパウンドボウを背中に背負って、俺が貸したカットラス刀とポリカーボネート製のバックラーを装備している。 俺はナイフとクロスボウを、アネモネにもナイフを渡しているが戦闘は無理だろう。 彼女は後方から魔法を使っての援護だ。「アネモネ、後ろも見ててくれよ。今のところ一本道だが、分岐があったりしたら、後ろから襲われる可能性があるからな」「うん……」 アネモネは流石に怖いようだ。俺の背中にひっついている。「うぉぉ――超怖えぇぇぇぇ」 やっぱり暗闇ってのは本能的な怖さがあるな。こればっかりはどうしようもない。 簡単に体験してみたければ、夜の海や川へ潜ってみればいい。下手な肝試しより怖いので――おすすめは出来ないが。 足元をチョロチョロとトカゲのような生物が走り回り、明かりから逃げるように闇の中へ消えていく。 ミャレーのような獣人は夜目が利くので、このような暗闇でも何も感じないらしい。 魔物の気配があれば、直ぐに解ると言うし――まるで生体レーダーだな。 それにしても虫の臭いか……。虫は苦手なんだが――デカいGだったりしたらどうしよう。「ケンイチ、後ろから何か来るにゃ!」「なに?」 ヘッドライトで後ろを照らす。すでに入り口の光も見えず真っ黒なのだが――。「バリケード召喚!」 俺たちの前に、丸太を組んで作ったバリケードをアイテムBOXから出した。 尖った丸太の後ろに広がる暗闇に、ライトの光が動く物を捉えたのだが。「うわぁっ!」 思わず俺は、クロスボウを構えた。だが、耳に飛び込んできたのは聞き覚えのある鳴き声。「にゃー」 何かと思ったら、ベルだよ。森猫がバリケードの横をすり抜けると、長い身体を俺にすり寄せてくる。 俺たちの後ろをつけてきたのか?。「ふう――脅かすなよ」 胸を撫で下ろして、バリケードをアイテムBOXへ収納する。