単純に首を傾げるディーと、その陰から俺を威嚇するジェイ。アドバイスと聞いていたのに、何の説明もなしに湖畔へ連れてこられたのだから、疑問に思って当然だ。「今日、お前らには、Aim力強化の訓練方法を教える。見て覚えて帰れ。以上」「…………はぁ?」「訓練方法だけですか? それって、アドバイスでも何でもありませんよね」 だって、訓練なら自分たちでもう既にしているから――とでも言いたいんだろうか。「間違った訓練を続けるほど愚かなことはないぞ」「お師匠様のお教えが間違っていると言うのですか!」「え、いや、うん。そうだけども」 予想以上の剣幕で怒鳴られて、つい呆れ笑いしてしまった。 なるほど。どうやらジェイの方が、エルンテによる洗脳教育の効果が酷く出ているみたいだ。「俺に歩兵弓術だけでボッコボコにされたあの爺さんを信じるか、歩兵弓術だけでボッコボコにした俺を信じるか。好きにしろよ」 俺は二人を試すように、二者択一を投げかけた。 ちなみに俺が《歩兵弓術》だけでボッコボコのクソミソにできた理由は、ひとえにAim力の差である。「……いいわ、見せてみなさい。その訓練方法」「姉さん!?」「ジェイ、冷静に考えるのよ。多分、彼の言う通りだわ。鬼穿将は、本当に、私たちへ嘘を教えていたのかもしれない」「でも! 現鬼穿将はお師匠様です! エキシビションでこの男に負けたのも実はわざとで、夏季に勝つための布石だったのかも……!」「じゃあ……じゃあっ、どうして私たちを見捨てたの! どうして、ミックス家の弓術指南役を放り出して何処かへ消えてしまったの! どうして私たちは何十年も成長しないままなのよ!!」「……ね、姉さん……」 溜め込んでいたものが一気に爆発したかのように、ディーは絶叫する。 ジェイはそんな姉の様子を見て、黙るしかなかったようだ。彼女も疑問に思ったのだろう。否、心の奥底では常に疑問に思っていたのだろう。エルンテの行ってきた数々の所業を。「……もう、うんざりよ。目を覚ましなさい、ジェイ。今は目の前のことに真正面から向き合うしかないの。自分の足で立つしかないのよ」「…………っ」 二人はずっと、子供の如く扱われていたのかもしれないな。自立しないように、親の言うことを聞くように、そして傲慢であり続けるように。 99歳児と81歳児か、なかなかに酷いな。あのクソジジイ、上手いこと利用したもんだ。他者の人生を何だと思ってんだろうか。全くイラつくね。「さて、もういいか? いいなら順次見せていくぞ」 まあ姉妹間のアレコレは俺には特に関係のない話なので一旦置いといて、本日の目的を優先しようと思う。時間は有限である。なるべくテンポ良く進めたい。 俺が急かすように尋ねると、二人はこちらを向いて頷いた。エルンテではなく俺を信じてみるということで、ひとまずの決着がついたらしい。「理想から言う。近距離、中距離、遠距離。どんな距離でも、標的が動いていても、自分が動いていても、百発百中で当てられるようにする。お前らはそこを目指せ。そのための訓練方法は本来ならばそれぞれの距離で異なるが、一連の流れの中で大方を満遍なく訓練できるような方法を俺が過去に編み出した。今回はそれを教えようと思う。やって見せるから、理解しな」「ま、待ちなさい。遠距離って、どの程度? それに自分も相手も動いているのに必ず当てるなんて……」「不可能です。9割当てられるようにはできるかもしれませんが、百発百中なんて……」 あれ、何かデジャヴ……。「可能とか不可能とか、問題じゃねえよ。可能になるまでやれ。そのための訓練だろうが」