しかし、さすがに毛布の中で過ごすのは暑すぎた。 とさりと倒れ、ようやく毛布から頭を出したマリーは汗ばんでおり、そのまま熱っぽい息を吐く。とろんとした瞳をしつつ、それでも僕の頭を抱きしめたままだ。「こ、今年の冬は忙しくなりそう。日本の式を学ばなければいけないわ」 熱を冷まそうと呼吸を小刻みに繰り返しながら、そうマリアーベルは呟く。 年間行事には新たなイベントが加えられ、頭の中のカレンダーに丸印が描かれる。たぶんきっと楽しいことが起こるだろうなと僕らは思う。 ベッドに手をついて彼女は身を起こそうとしたが、力が抜けてしまって無理だった。きっとたくさん泣いてしまったからだろう。 代わりに枕を取ろうと腕を伸ばした姿勢のまま……しばし身体を震わせる。「エルフ族にはどんなしきたりがあるのかな」「……古くからある木の下で祝福を受けるの。そして互いの名を告げて、子の名前を授かるそうよ」 うわごとのように呟いているのは、たぶんエルフ族の結婚式のことを思い浮かべているのだと思う。たらたらと汗を流すのは、秋真っ只中の夜にしては珍しい。 僕の耳には可愛らしい彼女の声が響いて、おかげで挙式の景色がだんだんと鮮明になってゆく。「そうして正式な手順を終えたら、催し物は私たちが決めるの。食事でもダンスでも構わないわ。楽しいと皆で感じるのが大切なのよ」「だったら料理……と言いたいけど食材を調達できるかな。いや、なんだかそれもウリドラが張り切ってくれそうな気もする」 違いないわと言うように少女は手を差し伸べて、僕の肩に抱きついた。力が入らないのは相変わらずで、爪がきしりと肌に食い込む。 そしてお互い、夜にふさわしい息をゆっくりと吐いた。