「まあ、こうなるか……」 シルビアとエルンテとの試合は、概ね俺の予想通りとなった。 鬼殺し、香車ロケット、新鬼殺し……全て、エルンテには通用しない。どれも一度、見せてしまっているから。 足元に《角行弓術》を撃つ隙も、《龍馬弓術》で穴を掘る隙も、《歩兵弓術》で端へ誘導する隙も、エルンテは与えてはくれなかった。「ぐあっ!」 また、シルビアが被弾する。 奇襲戦法が通用しないとなれば、後は実力のぶつかり合いだ。 数百年の経験と、3週間の経験では……勝負にならない。「くっ……そぉ!」 立ち上がる。 何度も。何度も。 シルビアは懲りることなく立ち上がり、鬼穿将へと立ち向かっていく。 勝てるわけがない。そんなこと、あいつも、試合の前から痛いほど分かっていただろう。 ……それでも。立ち上がる。立ち向かう。薄ら笑いを浮かべるジジイに、せめて、一撃でも、と。「まだ、だっ……!」 シルビアは全身が傷だらけだった。 盾代わりにしていた左腕には三本の矢が刺さっており、もはや動かないだろう。 そう。攻撃の手段など、もう、ないというのに。 それでも。立ち上がる。立ち向かう。 馬鹿みたいに。ただひたすらに、真っ直ぐに。 何度も。何度も。何度も。「そうだ……行けっ……!」「しるびあ……がんばれ……!」 気が付けば、俺は座席から立ち上がり、応援していた。 エコもそうだ。俺と一緒だ。居ても立ってもいられないんだ。「――シルビア! 近付け! それしかない!」 観客席から応援の声が飛ぶ。 声をあげたのは、ノワール・ヴァージニア。シルビアの親父さんだった。 寡黙で堅物な印象のあの人が、ここまで声を張りあげるなんて。彼を知っている人物は心底驚いたことだろうが……俺は、好きだ、そういうの!「行けオラァッ! 前に出ろ! シルビア!」「いっけえええー! しるびああああ!!」 力いっぱい応援する。 シルビアは今、きっと、正義に燃えている。 絶対に負けられないんだ。 あいつ、負けられなくなったんだ。 だったら、応援するしかないだろうが。 あいつがせめて、前向きに倒れられるように。「うおおおおお――ッ!!」 シルビアは、血反吐をまき散らしながら叫び、疾駆した。「無駄じゃ。無駄無駄」 エルンテの《歩兵弓術》が、その体を襲う。「ぐっ、うっ……ぐぅうう!」 ぐさぐさと突き刺さった。 シルビアの、足が、止まる。 それでも、決して、膝はつかない。「そろそろ終わりにしようかのう」 エルンテは冷徹に呟いて、《飛車弓術》を準備した。「――シルビアッ!!」 俺は思わず叫んだ。「ぐぅ、う……ぅうあああああああッ!!!」 俺の叫びに呼応するように、シルビアは前に進む。 その弓に矢すら番えず。ただ、体のまま、真っ直ぐに。 そうだ……進め。 進め……! 行け! 行け! 行けっ……!!「無駄じゃて」 エルンテが《飛車弓術》を放つ。 ……誰もが。 “終わり”だと、そう、思っただろう。