最終的に、アイスは天を仰いだ。 おでこに手をあてて「あちゃー」と言っている。「ご、ごめんなさい。そんなに駄目だったかしら……?」「はぁ……いーい? あなたは今ね、魔物が犇めく森の中に、手ぶらで入ってきたようなものなのよ?」「あ、それなら昔に」「え?」「え?」 互いにきょとんとする。 アイスは暫しの沈黙の後「まあいいわ」と一言、改めて口を開いた。「無理よ。あなた、このままじゃパン屋なんて到底無理。悪いこと言わないから、まずどっかの店で雇ってもらって修行しなさい。そこで色々と学んで、それから開業するの。それがいいわ」「そ、そうなのかしら」「そうなの!」 あまりにも世間知らず過ぎるアザミを相手に、アイスは段々とイライラしてきたようで、若干怒りながらも的確なアドバイスを口にする。 一方のアザミは「そういうものなのねぇ」と、まるで他人ごとのようであった。「アイスさん、ありがとう。とても勉強になったわ。また買い物に来てもいいかしら?」「ええ、またいらっしゃい。あなた、見ていてほんっっっとーーに不安だから。むしろ定期的に顔を見せに来て、お願い」「とても親切な人なのね、貴女……わかったわ、そうする」「親切なんかじゃないわよ。私の精神衛生上の問題よ」 ありがとうありがとうと何度も感謝を口にするアザミを、アイスは「はいはい」と手をひらひら振って見送った。 変な人もいるものだ、と。呆れ顔でそんなことを思う。 これが、アザミとアイスの出会いであった