そしてしばらくするとコウお母さんが、「あら、いけない。私この後、お薬の相談の約束があって、そろそろお店に戻らないとダメなのよ」とおっしゃった。「ええ!? もう戻るんですか!?」 と、私は驚いたふりをしたけれども、実は知っていました。 知っていたからこそ、今日と言う日にバッシュさんのところに訪問したのです。 すみません、コウお母さん、これもすべてバッシュさんと二人きりで話す、ため……! 実は私は、グエンナーシス領地で親分が活動しているかもしれないということをコウお母さんに話せていない。 だって、もしそのことを話すとなると、グエンナーシスの現状のことまで伝えなければならなくなる。 アラン達にはサロメ嬢も信頼できる間柄だから話せたけれど……。 いや、私にとってコウお母さんは世界で一番信用できる人だけれども、サロメ嬢にとってはそうではないのだ。 だから、コウお母さんには、言えなかった。 なんでも話すことができるコウお母さん、あの魔法のことだって、コウお母さんには打ち明けたというのに……。 ああ胃が痛い。 しかも隠しごとの内容は親分のことだし。 なんていうんだろう。この気持ち。 両親がお別れして母親の方についていったけれど、実は父親ともたまにこっそり会っていて、それを母親に言えないでいるみたいな、この感覚! 私がなんだか、内心気まずい思いを抱えていると、コウお母さんが私の方に顔を向けた。「ずっと前からある約束なのよ。リョウちゃんはどうする? 一緒に戻る?」 とコウお母さんが尋ねてきてくれたので、私は首を横に振った。「せっかくなので、まだバッシュ様とお話ししたいと思います。商会関係のことも確認したいことがありますし」 と笑顔で答えると、コウお母さんが私をじーっと無言で見つめてきた。 あ、あの目は……完全に疑いの眼差し! なにか心の中を探られているようで、冷や汗が出る。 コウお母さんは察しがいいし……。 だからこそ、私とバッシュさんの会話をあまり聞いて欲しくないのだ。 私が親分の話題やグエンナーシス領地の話に触れれば、色々と察してしまう気がする。 けれどもその察しのいいコウお母さんの疑惑の目が今まさに私に降り注いでいる!「あ、あの、コウお母さん、ど、どうしたんですか?」「なーんか最近、リョウちゃん私にまた隠し事があるみたいなのよねぇ」 ギクリと背筋が伸びそうになるのを、どうにか抑える。 ダメだ、動揺すれば勘付かれる。 ここで見破られるわけにはいかない!「そんな、私がコウお母さんに隠し事なんてあるわけないじゃないですかぁ」 と、コウお母さんの目を合わせ、ることはできなかったので、鼻のあたりを見つめてそう言う。 少しばかりの沈黙の後、コウお母さんが口を開いた。