一旦、家に戻り、出発の準備をする。 戻ると、プリムラが汗を流して商売をしていた。「朝からそんなに頑張る事はないだろう」「いいえ、客がいて、売る物があれば、汗を流すのが商人ですから」 そう言われると、俺みたいなインチキ商売人は耳が痛い。 だがキリがないので、商売をほどほどにさせて、出発の準備をしなくては。「ケンイチ、汗をかいてしまったので、身体を拭きたいのですが……」「解った、着替えも出すよ」 俺も手伝ってやろうと言ったら、顔を赤くして、家の中へ逃げ込んだ。夫婦でも、まだ恥ずかしいのか。 プリムラの準備も出来たので、家やテーブル等をアイテムBOXへ収納した。「おおっ!」 ギャラリーから、どよめきが起こるが――渋い表情をしている商人らしき者もいる。 もしかして羨ましいのかもしれない。そりゃ、商人がアイテムBOXを持っていたら、鬼に金棒だからな。 マロウさんのアイテムBOXの容量は、4畳半の部屋1つ分ぐらいらしい。それでも馬車1台分は入るからな。 それに重さは関係ないので、馬車に積めないような重量物もアイテムBOXで運べる。こいつは強力だ。 それでも、マロウさんはアイテムBOXに依存する事なく、どうしても馬車で運べない物や、貴重品、生鮮品などに限って使っているようだ。 皆で川へ行くと、川辺に降りて、アイテムBOXからゴムボートを出す。 川へ半分だけボートを浸けて、先ずはアネモネとプリムラを乗せた。そしてベルだ。「よし、ベル! 乗れ! 爪を立てないでくれよ」 俺の声で、ベルがぴょんとボートへ飛び込んだ。 続いて俺、最後に力自慢の獣人の2人に押してもらう。そしてボートが水に流れ始めたら、獣人達がひょいと飛び乗ってきた。「よっしゃ! 漕げ漕げ!」 皆でバシャバシャと水を掻き、獣人の2人はオールを使っている。多少、水しぶきで濡れてしまうが仕方ない。 対岸まで1分ぐらいだと思うのだが、凄い長く感じる。これも走馬灯現象なのだろうか? そして対岸に接触したら、獣人達に先に降りてもらい、ゴムボートについている紐を引っ張ってもらう。「ふう! 到着!」「怖かった!」「こんな具合に川を渡ったなんて初めてですわ」 しかし、なんとか川は渡れた。ここから車をアイテムBOXから出して王都へ向けて、また出発すればいい。 少々服が濡れたので、アネモネの魔法で乾かしてもらう。「ん~乾燥!」 王都は、ここから100km程らしいので、2時間もあれば到着するだろう。地面も乾きつつあるし、今日中に到着出来るはずだ。