腹立たしい男。 最初は第二王子殿下のコネで講師になった口だけ野郎だと、そう思っていた。 でも、悔しいことに実力は本物で。 言っていることも、滅茶苦茶に聞こえるけど、きっと正しい。 それが何より気に食わなかった。 その形にとらわれないやり方が、豪放磊落な振る舞いが、自信たっぷりの余裕が、気に食わない。 今までの私の努力を、人生を、全て否定されたような気がして。 とにかく気に食わない。 本当なら、私もそうだったのに。 魔術の才能なら誰にも負けなかったのに。 彼は、私のプライドを粉々に打ち砕いていった。 それだけじゃ飽き足らず、規律も、空気も、常識も、私の周囲の何もかも全てを粉砕していった。 この男の嫌に端正な顔を見ると、どうしようもなく苛立って、心がざわつく。 最早、自分の感情をコントロールできない。 昨日だってそうだ。 私と団長を悪者みたいに仕立てて、自分だけ印象を良くして。 ただ有り余っているお金をちょびっと払っただけじゃない。 確かに、旅館は素晴らしいものだった。ご飯も、お風呂も、お部屋も良かった。 でも、こんな性格の私が、あいつの施しを素直に楽しめるはずもない。 私だって第一宮廷魔術師のエース。この程度の高級旅館、プライベートでも泊まることくらいできる。 私だけは自腹で払ってやるって決めた。 私は、私だけの力で、一流の宮廷魔術師になったんだ。 それは、これからも、そうでなきゃ駄目なんだ。 あんな奴の功績なんかじゃなく、私自身の実力じゃないと。じゃないと……