伝説の帰還 アズリーは狼王ガルムを前に、顔をヒクつかせていた。「ハァハァハァ……ヘェァッ!?」 ガルムは空腹のあまり気付いていなかった。 正面にいる異様な存在たちに。そして気付いてしまったのだ。 自分がどんな現場に飛び込んでしまったのか。「ハッ……ハッ……ハッ……クゥン……?」 そして遂には……その場に座り込んでしまった。 後方でサガンとリビングデッドキングの戦闘が繰り広げられる中、アズリーは目の端でポチを見た。(これってどう見ても……) ここで、座っていたガルムの視線がアズリーの前で止まる。(媚びの売り方を見てもタラヲさんの可能性が高いですね。というかタラヲさんです。見てくださいよ、アレ……) そんなアイコンタクトを送ったポチ。 ポチのアイコンタクト通り、アズリーは再びガルムを見る。「ガルルルル……!」 ガルムは唸り声を上げ、アズリーだけを睨んでいたのだ。 この場で一番魔力が少ないのは間違いなくサガンである。しかし、ガルムの目にはサガンがランクSSのリビングデッドキングと互角以上にわたり合っていると見えた。 そして次に魔力が低いのは…………アズリー、という訳だ。 神によって魔力容量を制限されたアズリーは、ガルムに思わせてしまったのだ。 ――――あれ? コイツなら食べられるのでは? と。 ポチは笑いを堪えつつ、アズリーに目配せをしてくる。(にゃろう、楽しんでるな? まったく) ポチにじとっとした目を向けたアズリー。そんな隙を衝いて、空腹の狼王ガルムが跳びかかる。 しかし、アズリーがこの時代に来て落ちたのは魔力のみ。 単純な筋力であれば…………――――この中で一番なのだ。「ふっはぁああああああああああああああああああああっ!!!!」 バッチ~~~ンと引っ叩かれ、後方に吹き飛ぶガルム。 そのあまりの衝撃に、後方で戦うリビングデッドキングの目が丸くなる程だ。「キャインキャイン!? ゲヘフッ!?」「今絶対『解せぬ!?』って言っただろ!?」「そ、そんな事ある訳ないじゃないですかっ! 多分!」 ひょこひょこと脚を引きずり、尚もアズリーに近付く狼王ガルム。 アズリーはそんなガルムを見て呟く。「やめとけ。今のお前じゃ俺には勝てないよ」 優しい目を向けるアズリー。――だったが、モンスターであるガルムに通じる訳がなかった。「あ痛ぇ!? てめっ! こんにゃろ!」「ふっ! ふっ! ふは! ふはっは!」 アズリーの腕に噛み付いたまま、何とか堪えるガルム。 しかし、アズリーの筋力は異常で、力の出ないガルムはしばらくするとすぐに引き剥がされてしまった。「フッ! フッ! フッ! フゥウウウウウッ!」(どうやら、ここらを離れたら餓死するって顔だな。まったく……仕方ないな。もし、お前があのタラヲだとしたら、ここで死んでもらう訳にはいかないからな……) アズリーは深い溜め息を吐き、宙図を始めた。 既に優勢となっていた戦闘中のサガンは、これを横目に捉える。その公式は非常に美しく、そしてサガンの目に輝いて見えたのだ。「ほい、ストアルーム」 アズリーが正面に発動したストアルーム。余りにも不可解な現象を前に、ガルムは前に出る事が出来ない。 そしてアズリーがその中に手を入れる。「えーっと、どこに置いたっけか~?」 そんなアズリーの呟きを聞きながら、ポチは「戦闘中に何をやっているんだ」と呆れていた。 しかし、直後ポチの鼻がヒクつく。「むっ!?」