約束どおり、確かに悪魔族は怒らなかった。 ピースサインを向けられようと、こくこくと頷いて「そうか」とだけ答えてくれる。しかし、他の者達はというと……眉間へ皺を刻み、見下ろして来る迫力へダークエルフは血相を変えた。 恨みの種類で言うと、食べ物に関することが上位に挙げられるのは言うまでもない。あらゆる世界の常識である。だからこそ周囲から、へえ、ふーん、ほお、絶品でしたかぁー、と恨み混じりの声が漏れ、だらだらと二人は汗をかく。 プセリは口元を押さえる手をベリッと引き剥がし、慌てて弁明した。沈没しようとする船に、いつまでも乗ってはいられない、という表情だ。「わ、私は一杯しか食べておりませんわ! 皆のことを思えばこそ、後ろ髪を引かれながらも離れたのです!」「ちょ、ちょっとプセリ、一緒に浮き輪で泳いだ仲じゃん!? それにホラ、あれだけお酒が美味しいって言ってたし、美人だ何だともてはやされて……もががーっ!」 もう駄目だった。秘密にしていた情報はことごとく暴かれ、それどころか交互に自白をしてしまう始末。ダイヤモンド隊はただでさえ命をかけて古代迷宮を攻略している最中なのだから、ふつふつと皆の怒りは湧き上がる。 その恐ろしさからプセリとイブは思わず互いに抱きしめ合い、だらだらと嫌な汗をかいた。 さて、そのようなどうしようもない経緯があり、皆を慰安するためのバカンスを急遽開催することになった。 折しも第二階層広間の完成した時期でもある。話を聞いた魔導竜ウリドラが「それならば居心地の良さを試す良い機会じゃ」などと手を差し伸べてくれた。 これが渡りに船となるか、はたまた毒を食らわば皿までになるかは分からない。何しろ正体の知れぬ黒髪美女からの誘いであり、しかし隊の皆は「行きたい行きたい!」と駄々をこねてしまう。 どうやら噂によると第二階層広間は、大きく生まれ変わったらしい。楽園のように美しいという言葉に、一部の者は不安を抱えつつも、他の者たちは夢いっぱいで訪問することになった。 そのように、第二階層広間のいわばプレオープンは始まったわけだ。