「竈門少年、通話をスピーカーに切り替えろ」幸い周囲に人通りはない。誰かの迷惑になることもないだろう。少年は無言で携帯を耳の横から三人の中心へと移動させ、スピーカー変換のボタンを押した。「…からっ、いねぇんだっつってんだろ!!!」突如放たれる荒々しい怒鳴り声。喧嘩や戯れでの怒声なら何度も聞いたことがある。しかし、これは違う。こんなにも恐ろしく身の竦むような怒りの声は初めてだ。知らず知らずのうちにこめかみを汗が伝った。「……あいつだけじゃない。あいつが使ってた物も、何もない…。電話もつながんねぇ……。どういうことだ。お前なら知ってんだろ?あいつは……善逸はどこにいる?」うってかわって静かな声が響く。その異様さに、誰も口を挟めなかった。「なぁ、黙ってないでなんとか言えよ」返答を促されるも、少年は顔を引きつらせて固まったまま。このままでは埒が明かない。そのため代わりにと、恐ろしさに慄いた口を開いた。「宇髄、俺だ。たまたま竈門少年と一緒にいてな。途中からではあるが話は聞いた。我妻少女がいないということか?だが、俺たちにも何がなんだか全く分からない。俺も一緒に探そう。だから、とりあえず落ち合わないか?お前は今どこにいる?」「………家だ」「分かった。すぐに向かおう」こちらの言葉を聞き入れる程度の理性はまだ残っていたらしい。そのことに安堵しつつ通話を切り、二人の少年を見つめる。「…ということだ。何が何だか分からんが、俺はとりあえず宇髄の家へと向かう。君たちはどうする?」普段であればすぐに家に帰るよう促していた。夜も遅い。未成年が出歩いてよい時間ではない。しかし、今回ばかりはそうも言っていられない。なにせ渦中の人物は二人の親友なのだから。「行きます!」「俺も行くに決まってんだろ!」「そう言うと思った。だが、親御さんに連絡だけはしておきなさい。でないと心配するだろう」素直に連絡を取り始めた二人を横目にそういえばと、我妻少女にも家族がいたことを思い出す。確か祖父と兄だったか。祖父と兄とは血のつながりはないのだと、自分も兄も幼少の頃に孤児院から引き取られたのだと、いつだったか話していた。ここまで自分を育ててくれた祖父には感謝していると、そうも言っていた。しかし、兄の話はあまりしていなかったように思う。もしかしたら、あまり仲が良くないのかもしれない。「ちゃんとババアに言っといたぜ!」「俺も母さんに電話しました!」「うむ。では行くとしよう」少年たちと共に駆け足で宇髄のマンションを目指す。我妻少女がいないとはどういうことだろうか。考えても分からない。情報が少なすぎるのだ。まずは宇髄に詳細な事情説明を求めよう。しかし、電話越しにさえ恐怖を感じた彼と、はたしてまともに話ができるのか。「よもや…」走って体温が上がっているはずの身体を、ぶるりと悪寒が駆け巡った。