その後、あんこの《暗黒転移》と《暗黒召喚》で闘技場へと舞い戻った俺は、何とかギリギリ最終戦の開始に間に合った。 一閃座戦、最後の相手はロスマンという名前のオジサンだった。 カサカリとの試合の後にちょろっと話しかけられた、薬物中毒者っぽい前髪後退気味の中年その人である。「あんたが一閃座だったのか。無視して悪かった」「いえいえ。私を知らない方もいるのだと勉強になりましたよ」 へぇ、謙虚な人だなあ。「貴方の剣筋、二度だけですが見させていただきました。いやはや、どちらも甚く鋭い。私は貴方に敵わないかもしれません」 悠然と語るロスマン。 微塵もそうは思っていないだろう、自信に満ち溢れた言い草。 …………ほぉ。「強いだろ、お前」「さて、どうだったでしょう。ここのところ、あまり人を斬っていないもので」「期待させてくれるなあ」「こちらこそ、楽しませていただきたいものですねぇ」 じわじわと高まってくる。 そうだ、この感覚だ。タイトル戦とは、こうでなければならない。「両者、位置へ」 審判の指示でロスマンと距離を取る。ロスマンの得物は、何の変哲もない長剣だった。 相手が何であろうが、俺のやることは変わらない。 セブンシステム――世界一位の定跡を採用する。「――始め!」 号令がかかる。 同時に、ロスマンと俺は間合いを詰めた。 初手、《歩兵剣術》と《桂馬剣術》の複合をロスマンの右足手前に突き刺すようにして放つ一撃。さて、どう受ける。「何度見ても素晴らしい」 ロスマンは何やら呟きながら、トントンと軽やかに後退して、初撃に加え《歩兵剣術》による斬り上げの追撃をも難なく躱した。最善の対応だ。 寄せては返す波のように、今度はロスマンが攻めに転じてくる。俺はその隙に《飛車剣術》の準備を済ませておき、構うことなく突進した。ほれほれ、対応せざるを得まい。「なるほどなるほど」 一言。ロスマンは《金将剣術》の準備を始める。 おいおい、それだとカサカリん時の手順と合流しちまうぞ。誘っているのか? この先に何か用意しているのか? なら、乗るのも一興か。 俺は即座にスキルキャンセルし、《角行剣術》を準備、ミスリルソードを投擲する。「この発想も面白いですねぇ」 俺の投擲を見て、ロスマンは《金将剣術》をキャンセル、その後《香車剣術》でミスリルソードを弾いた。貫通攻撃は同じく貫通攻撃で弾くことができる。その特性を利用した防御。なかなか勉強しているな。 さて。弾かれてそれで終わりかというと、そんなわけがない。 俺はロスマンがミスリルソードを弾いている間に、インベントリからもう一本のミスリルソードを取り出し、《龍馬剣術》を準備していた。カサカリの時は発動せず終わったこいつを、今度はしっかりと発動する。「これまた抜け目がない」 すると、俺の《龍馬剣術》の発動とほぼ同時に、ロスマンが《金将剣術》を発動した。 ああ、そう。このタイミングで《金将剣術》を発動できるってことは、さっきの《香車剣術》発動の直後にもう準備を始めていたということ。つまり、俺の《龍馬剣術》を読んで、彼なりの対応を準備していたというわけだ。 《龍馬剣術》は全方位への強力な範囲攻撃。《金将剣術》は全方位への範囲攻撃。どちらも防御向けの“対応”スキルだが、前者の方が範囲が広く威力が高い。しかし、相手の攻撃を防御するという一点だけ見れば、前者後者どちらであっても十二分な効果を発揮する。即ち――「終わりですかな? ではこちらから参りましょう」