中に入ると左手に厨房があり、壁際には火を扱うのでレンガで組まれた竈や、食器を並べる為の棚、それに俺が頼んだ銀食器などが陳列されていた。「こちらに数日分の食料は入っております、一応保存の利くものばかりですが足りない分は追加の目録にお願いしますね」「分かってると思うが目録を出すのは一回きりだからな。食い終わったからって追加発注しようとするなよ」「流石に分かってるって……」ダーウィンさんたら、目が怖いですよ?それに俺はレインリヒ達と違ってそんな恐ろしい真似を堂々と出来るわけないじゃないですかーやだなーもう。それに目録は鋭意製作中である。家を見て必要な物に気がついたら追加してお願いする所存ですよ。「そういえばウェンディってご飯作れる?」「一応料理スキルも持っていますがまだレベルが4なのであまり期待しないでいただけると助かります」「んーいいよいいよ。出来るだけ良かった。俺はレベル1だし。じゃあ料理はウェンディに習えばいいな」まだこの世界に来てほとんど錬金しかしてないからな。料理も農業もこれからゆっくりレベルを上げられればそれでいい。「ご主人様と共同作業……。はい。精一杯努めさせていただきます」「いや、そんな気合入れなくてもいいよ?」「いえ、ご主人様のご命令を遂行するために全身全霊で頑張ります!」握りこぶしを作ってまでやる気満々のウェンディもなんか可愛い。そうか共同作業……。『ご主人様? 包丁の持ち方が悪いですね。失礼します。ここをちゃんと押さえて……』『……ウェンディ? その、後ろから密着されると……』『? ……ッ! キャ!』『痛ッ』『ああ! 申し訳ありませんご主人様!』『いてて……』『血が! 失礼致します! はむ』『ウェンディ!? 指を!!? ああーー』みたいな? みたいな!うっへっへ。我ながら最高に気持ち悪いな。「えっと……」「突然何を言い出すんですの!?」「主。指をぱくってすればいいの?」ん?ん?んーーー???んんんんんん!!?「何をまさかそんな馬鹿な!」「いやいや。なかなかいないぞ。自分の妄想を口に出す奴」「俺が妄想を口に出していたとおっしゃられるでござりますか!!?」「なんだその話し方。ああ、後ろから密着されるところから、指を口に含ませるところまでな」「あっはっはっは。殺してくれ!」「それよりいいのかそっちは」「そうだった! ウェンディさん違うんです!!」「ッ……」ウェンディは顔を赤くして目を逸らしてしまった。「そ、その恥ずかしいですが、ご主人様が望まれるのでしたら……」「違うんです! 冗談なんです! ジョークなんです! ただの妄想なんです!」「あ、それでしたら私がしてさしあげましょうか?」「ちょっと黙ってろ色男!! 今俺の人生において一世一代の土下座をするから! ウェンディ頼むからこっちを向いてくれ!」ウェンディはしばらく顔を真っ赤にして俺のほうを向いてくれなかった。せっかく積み上げてきた俺の好感度がまさかの真っ逆さまなんじゃなかろうか!土下座で足りますか? 五体投地しますか!?頼むからウェンディこっちを向いてよ!あとシロ! まだ指切ってないから指を咥えようとしないでいいから!でも引かないでいてくれて、なんかありがとう!「……まあなんだ。確かにあの胸だしな。気持ちはわからんでもない」ダーウィンの優しい慰めが余計に俺の心を削っていく。しくしく……。……いや待て俺。俺は風呂にウェンディとシロと三人ではいる予定だ。とすれば胸を押し付けるくらい普通。むしろ大分弱い部類だろう。こんなことで二の足を踏まれたら後々困る。それならば!「っふ。ふふふ……」「主、怖い」「今度は突然笑い出しましたわよ!」「あれは開き直った顔だな。あいつ次は何をするんだろうな!」「父上、若様は必死なのですからあまり楽しそうになさらないでください」「ウェンディ!」「は、はい!」