さて、炒飯は角煮の味を引き立たせるようあっさりとした味付けをしており、おかげでビールはたまらなく美味しい。 一杯、二杯と空けてゆき、食事を終えるころには薫子さんは顔を赤くさせていた。きっと飲み会の旦那さんよりも堪能しているだろう。 ふうー、と二人は椅子にもたれかかり、満足しきった表情を浮かべている。「私、北海道出身で、このお肉は実家から送られたものなんです。ほら、夫は少し太り気味でしょう。カロリーを考えると悩ましかったんですよ」「へえ、羨ましい。僕は青森出身ですが北海道に行ったことは無いんです」 薫子さんは頬杖をつき、赤くなった頬に触れていた。 お酒のせいかいつもより表情は豊かで、ときおりマリーを眺めては頬をにまにまと緩ませる。「そういえば、お二人ともゴールデンウィークはどちらへ?」「せっかくですので、その青森へ帰省しようと考えてます。農家のおじいさんに挨拶をしようと」「あら、いいですねぇ。どのあたりへお住まいなのです?」「ええと、弘前市のあたりですね」 ふむ、と薫子さんは考え込み、スマホを取り出すと操作を始める。 お酒が回っているせいかぶつぶつと何やら呟き、やがて目当てのものを探し出したらしく表情を笑みへと変えた。 ずい、と目前に見せられた画面に、僕は少しだけ目を見開く。「でしたらこちらへ遊びに行かなければ損ですよ。今年はだいぶおすすめですね」 ああ、これは確かに――……。 おじいさんの軽トラックを借りれば……。「ありがとう、薫子さん。ぜひこちらへ遊びに行こうと思います」「はい、マリアーベルちゃんと仲良く過ごしてくださいね。楽しむコツは、着くときまで内緒にしておくことですよ」 先ほどの角煮のアドバイスを流用され、テーブルへ前のめりの薫子さんからにっこりと微笑まれる。 その柔らかな表情は彼女の女性としての美しさを感じさせるものであり、僕もつられて笑みを浮かべてしまった。 雨はしとしとと降り続け、予報によると明後日からは晴れる見込みらしい。 連休は待ち遠しいが、この待っている時間こそが最も楽しめているのかもしれない。「美味しかった、マリー?」「んふふっ! 美味しすぎっ! もしも日記を書いていたなら数ページを埋め尽くしてしまいそう」 そう言って夢見心地の表情で腕へ抱きついてくる少女と、もうしばらくその時を楽しもうか。