むくり、と起き上がることは出来なかった。 胸への重みを覚え、見下ろすと少々くたびれた金色の髪がある。ウェーブがかった髪のあいだには褐色の素肌が見え、そしてエルフ族らしい長い耳が覗いていた。 スヤスヤと眠る彼女を眺めながら、夢のなかでの出来事をゆっくりと思い返す。 つい先ほどウリドラとマリーは勇者候補であるザリーシュに目をつけられた。そして2人を仲間に加えたいと申し出をし、直後こちらへ剣を向けたのだ。 レベル60差となれば善戦もできず、秒殺されたのは素直に腹立たしい。しかしそれだけでは終わらず、ザリーシュは仲間だったイブまでも殺めてしまった。 ふすー、と困り果てた息を吐く。 事なきを得たと思うべきか、あるいは面倒な男に目をつけられたと嘆くべきか。 少々変わっている僕は、夢の世界とこの日本を往復できる。睡眠、あるいは死によって目覚めるが、イブなる女性も同時に命を散らし、たまたま僕の腕のなかにいたことで日本へ招くことになってしまった。 つまり今の僕は殺されて目覚めた直後であり、当然のことマリーもウリドラもまだこちらへ戻っていない。今日は土曜日であり、大型テーマパークへ遊びに行く日だというのに。などと梅雨の晴れ間といえる綺麗な青空を眺めながら思う。「ま、無事に済んだのは幸いか。彼女にとっては、どちらが良かったか分からないけれど」 その声が届いたのか、ぴくりと彼女は長耳を揺らし、続いてくんくんと匂いを嗅ぐ音を響かせる。そして顔をゆっくり持ち上げると、イブなる女性は僕の胸元へと顎を乗せた。 まだ眠そうながらもピンと跳ねた眉と瞳は強気そうで、青く綺麗な瞳をしている。褐色の肌は健康的に引き締っており、相反するようたっぷりの谷間、押し当てられてたぷんと歪ませる光景から視線を逸らす。 ……分かってたけど、大人だな、この人。いや、そんな悠長なことを言ってられないか。「言っておくけれど、これは僕のせいじゃないからね」 ゴリッ!と喉を肘で押さえつけられ僕は「ん~~っ!」と声にならない悲鳴を上げた。 分かっていた、分かっていたよ。彼女はもともと敵に近しいのだし、全裸で布団のなかにいたらこうなるだろう。 軍人じみた動きで顎から喉へ体重を思い切りかけられ、ギッシ!とベッドは大きく軋んでしまう。「~~~ーーっ!」「捕らえたなんて思ったわけ?! 最後に良いものが見れて良か……ん、なんであたしは生きて……」 ほんの少し力を抜いてくれ、ぷあっと新鮮な酸素を肺に送り込む。まだ馬乗りにされており息苦しいけれど、ひとまず窒息死はまぬがれたようだ。ぜひぜひと呼吸を荒げ、そしてなるべく彼女の裸体を見ないようにして声をかける。「……君は死んだよ、イブさん。僕と一緒に死んで、そして一緒に目覚めた」