そしてフユがプラチナの首を撫でる。「怖いよね……うん、私も怖いよ……」「ブルルルルッ」「うん、勝ってプラチナをアズリーさんに紹介しなくちゃね!」「ヒッヒイイイイイインッ」 高く脚を上げて自らを鼓舞するように振る舞うプラチナ。 そんな二人のやり取りを見た後、リナがバラードを見上げる。「リナしゃま! 私あいつ嫌いでしゅ!」「ビリー……先生…………」 変わり果てたビリーの姿、それを見て胸を、心を痛めるリナ。 しかし、こんな時リナはいつも思うのだ。――師ならどうするかを。「うん、まずは止めなくちゃ。後は……――」「――止めた後に考えればいいでしゅ!」 皆が決意を固め歩を進める。 向かう先は地獄。潜り抜けなければ師の背中が見えない地獄。 リナもフユもそう思っていた。「がっふ……ひゅー……ひゅー…………」 ガストンの呼吸は最早危険な状態にまでなっていた。 左肩から噴き出る血液と、大地に残る夥しい数の血痕。「よく持つな……ガストン?」「何、それは儂が一番…………驚いている……ヤツらが逃げるまでの…………辛抱」 俯きかけるガストンの背後に、二つの気配。 その気配にビリーはニタリと笑い、ガストンは俯く顔を止めた。「何故…………残った……」「じゃあガストンさんは、何で戦ってるんですか~?」「ふん…………そんな事、忘れてしまったわ……ぐふぅ!」「っ! ハイキュアー・アジャスト!」 バルンがガストンに回復魔法を放つ。瞬間、ガストンの外傷はみるみると消える。 しかし、ガストンの顔色が戻る事はない。それだけ内部の損傷が激しいのだ。「なるほど、その鞘が杖なのか。しかし、お前が大魔法をスウィフトマジック化出来る事を知っているとは……少々驚いたな?」 ビリーがバルンの背中にある鞘を指差して言う。「ちょっと魔法に詳しい人と知り合いになったもんでね」「名は?」「教えるとでも思ってるのかねぇ……」 目を細めるバルンを前に、ビリーがくすりと笑う。「今の回復魔法……何故私が許したかわかるか?」「…………さぁね」「お前にとってそれが最後の魔力だと知っていたからだよ、クククク」 直後、ビリーの笑い声が止まる。「ほいのほいのほい! 聖生結界&リモートコントロール!」「なっ!?」 後方から飛んできたガストンへの内部回復魔術。 大地に膝を突くガストンは、静かにその温かみへ身体を委ねる。(――――リナ……か。何故、何故、何故、何故………………いや、言うだけ無駄か。あの小僧の生徒なのだから……) ――ほぉ、この時代にこれ程難解な魔術を使える者がいるとはな。しかし、この魔術……いや、魔術自体にそれはない。もっと根本的なところに感じるこの懐かしさは…………一体? そしてあの掛け声…………どこかで聞いた事があるような?「ふん! ギヴィンマジック!」 続き駆け付けたオルネルがガストンの足下に向かって魔法を放つ。「――ほいのほい! オールアップ&リモートコントロール!」 そしてフユがガストンの身体に強化魔法を掛けた。これによって身体への苦痛、負担を減らしたのだ。「まったく……馬鹿しかいないのか、儂のところには……」 ――まただ。あの掛け声、この身体強化魔法。どこかで、どこかで見た事がある。誰だ? 我が主ではない。もっと温かく、そして熱いヤツだった……。「ははははは、そんな死にぞこないに何をしても無駄だ! ふん!」 そう言ってビリーは魔力弾をフユの後方へ飛ばした。 狙った先にあったのは、空間転移魔法陣。「これで逃げられる事もないだろう。たとえ魔力が残っていたとしても、私がそれをさせないからな」「逃げる必要などない」