あぁ、でも言った気がするな……。 当時の俺は本当にAさんの事を親みたいに思っていたし……。 だけど――中学生のママか……。 なんだろう、惹かれるものがあるな……。「ねぇカイ――昔アリスが『青陵学園に入ってほしい』って頼んだの覚えてる?」 俺がちょっと馬鹿な事を考えてると、アリスさんが真剣な声色――だけど、顔は無表情でそう聞いてきた。「はい、覚えています。あの時アリスさんは通い続ければその理由がわかると言いましたけど……結局僕は今でもわかっていません。あれはどういう意味だったのですか?」「あれは――アリスの罪滅ぼしなの」「罪滅ぼし……?」「そう、カイに青陵学園に入ってもらった理由――それは、カイを通して西条の子を助けたかったから」「雲母を……?」 アリスさんは俺の言葉にコクリと頷いた。 どういう事だ……? 何故、アリスさんが雲母を助けようとしたんだ? そもそも、一体何から助けるつもりだったんだ?「カイにお願いする数か月前――今回と同じように西条の子にアリアが勝負を挑んだ」「……それはどういった勝負だったんですか?」 正直、過去にも雲母がアリアさんと勝負をしたというのは、雲母の話からなんとなくわかっていた。 つまり、雲母が過去に逃げたというのは、アリアさんからだったのだろう。「毎年アリス達の学園で行われてる人気投票で勝負だった。ただし、その時賭けたものは何もない」「え……? それだけ……?」 それはおかしくないか……? たったそんだけの理由で、雲母が逃げたりするのか……?「勝負内容自体はそうでもないけど――結果が酷かった」「……どんな結果だったんですか……?」「西条の子が自分で入れた票以外、全てがアリアに入った」 ……なるほどな……。 それは確かに心に来る。 そして、雲母がアリアさんを汚い奴と言った理由もわかった。 どう考えても、これは真っ当な勝負で行われたものじゃない。「まさか、それほど二人の人気に差があったと言う訳ではないですよね?」「うん。あの二人はタイプが違うけど、学園のツートップだった。活発に行動し皆を引っ張るアリアに対して、西条の子は大人しくて優しい友達思いの人間で、特に後輩から慕われていた」 ……雲母が大人しくて優しい人間……? 馬鹿な、人違いをしていないか……?「俺の知ってる雲母と随分イメージが違うようなんですが……?」「それは、西条の子がアリアみたいになろうとしたからだと思う。今日会った時も、金髪に染めてたし、口調がアリアそっくりだった。昔は優しい喋り方をしてたのに……」 まぁそうなるのか……。 だとすれば、本当にア・リ・ア・は許せないな。 どれだけ雲母の人生を狂わせるつもりなんだ。「そうなると一つ疑問があるんですが――なんでそんな大人しい雲母がアリアと勝負をしたんですか?」 俺はもうアリアの事を呼び捨てにした。 敬称で呼ぶ必要がない人間だからだ。「最初は勝負を断ってた。だけど――アリアは西条の子に勝負を受けさせるために、その親友を狙った。そして、その親友を庇う為に西条の子は勝負を受けた」「……なんてずるい……。でも、ちょっと待って下さい。だとしたら、その親友はそこまでした雲母に票を入れなかったのですか……?」 先程アリスさんは、雲母に入った票は自己投票の一票だけと言った。 つまり、雲母以外は投票をしていなかったことになる。