二人はこう言ってはいるが、内心では俺に行ってほしくないのだろう。笑顔が少し寂しげだ。 ムラッティやミックス姉妹との約束を終え、明日からは彼女たちに“定跡”を教えようと考えていた矢先の話である。タイトル戦のあの悔しさがまだ鮮烈に残っているに違いない彼女たちは、居ても立ってもいられないはずだ。なのに、俺を気遣って笑顔を作ってくれた。 ……できるだけ、早く帰ってこよう。俺は心に決めて、頷いた。「すまん。予定を前倒しにして、カメル神国の調査を先に終わらせる。二人の特訓はそれが済んでからにさせてくれ」「うむ。その間、私たちは自主練だな。基礎を固めておいて損はないだろう?」「概ね得しかないぞ」「ではそうする。後は、そうだな、息抜きにダンジョン周回もいいな」「あたしもいく!」「おっ、エコも乗り気か。ならば明日にでも行こうか」 前言撤回。この二人、放っておいても勝手にどんどん強くなっていきそうである。やる気の塊だ。こりゃ暫く帰らなくても大丈夫かもしれない。「留守中はお任せください」「ああ、頼りにしてる」 ユカリも本当に頼りになる。安心して留守にできるな。ただ留守中はというか常時ずっと家のことを任せっきりなので、いつも通りとも言えるが。 ……あれ? ファーステストって、ひょっとして俺いなくても何ら問題ないんじゃ……?「夕餉の支度をして参ります」 ユカリの尋常じゃない優秀さに要らぬ無用感を覚えているうち、すっかり日が暮れた。 晩メシは、カキフライに青魚の南蛮漬け、長芋のサラダと卵焼き、アサリの味噌汁。 もしやと思ってユカリを見やると、耳の先をほんのり赤くしながら熱っぽい視線でこちらを見つめていた。なるほど勉強になる。カキと青魚と長芋と卵とアサリって、精のつく食べ物なんだなあ。 結局、夜は一睡もできなかった。必要とされるって、気持ち良いけど、大変だ。