悪かったよ」「《貸し》一です!」「…………まじ?」「当然です!」 どうやら相当おかんむりらしい。 まさかの旅立ってから初の「借り」だ。 過去八百年、ポチがこの「貸し」を発動したのは数えられる程だ。 その数二回。 一回目の「貸し」。 これはポチが使い魔になって二百年程経った頃、ポチが大事にとっておいたデザートを食べてしまった時。 この「借り」は、ポチが納得のいくお菓子を毎日試作で提出する事だった。返済に一年と二ヵ月かかってしまった。 二回目の「貸し」。 四百年目の事だ。記憶が鮮明に残っている。 なんせあの日は、ポチが使い魔になってからちょうど四百年目の日の事だったからな。 勿論、そんな事は後になって知ったんだが、ポチのヤツ覚えてやがって、「ご馳走はまだか?」、「肩を揉んでください」とか色々我儘を言っていた。 その頃俺は大魔法への魔術導入の研究で忙しかったものだから、相手に出来なかった。 翌日以降のポチの態度が酷かった。口はきいてくれないわ、研究の邪魔はするわで、許してもらうのに発動されてしまった。 この借り、返済は一ヵ月の主従逆転権。「ポチ様」と喉が枯れるまで言い続け、終始うんうん頷いているポチがとても怖かった。 まさかあれから四百年以上経ってまたこれが発動するとは、そこまで嫌だったか。「……えーっと、返済はどういったカタチで?」 首を折るように傾け、ポチに尋ねると、「考えておきます!」 そう言い切った後のポチは、見ていてとても不思議だった。 不機嫌は一瞬で消え、鼻歌を歌いながら毛づくろいを始めていた。 きっと俺への復讐を考えるのが楽しいのだろう。ぞくりと感じる寒気に、自身の肩を抱く俺。 そう言えば、あれから一言も喋っていない美少年もとい美少女はどうしているんだろう? ふと振り返ると、街道に一人、手で顔を覆って突っ立っているアキちゃんを発見した。「どうしたんです?」「しばらく……そっとしておいてください」 そっとしておいた。 しかし、ブライト少年のあの女装。ある意味ジュンに見せてやりたかったな。 血眼になって俺を怒るか、興奮し、出血多量になる程鼻血が出たかもしれない。 この時代を去る時が来たら、去り際に言ってみるか。そうすれば俺に被害はないしな。 うん、考えておこう。 休憩がてら外れの草むらに腰を下ろし、ポチの毛づくろいが終わり、チャッピーの気疲れも落ち着きを見せ、未だ女装中のアキちゃんが俺に肉薄する頃、俺たちはトウエッドの首都、《エッド》へ向かおうとしていた。「師匠! いつになったら着替えていいんですかっ!? もう! もういいでしょうっ?」